~ 加齢で肩が上がらない!それは変形性肩関節症かも!? ~
変形性肩関節症は高齢者に多い肩関節疾患の1つで、年齢と伴に有病率が増加していきます。
主に原因疾患などは特にない一次性変形性肩関節症が多いと言われており、退行性変化に起因すると言われています。
基本的な診断は単純X線で行われ、肩甲骨関節窩の状態や肩峰と上腕骨頭間距離などから状態を判断します。
X線分類の状態によっては手術療法が適応となります。
手術療法は解剖学的全人工肩関節置換術、人工上腕骨頭置換術、リバース型人工肩関節置換術などがあります。
手術療法であっても保存療法であってもリハビリが大変重要です。
ここがポイント!変形性肩関節症のまとめ
- 変形性肩関節症は年齢と伴に有病率が増加する
- 原因疾患が明らかではない一次性変形性肩関節症が多い
- 基本的な診断は単純X線で行われる
- 骨の状態によっては手術療法が行われる
- 保存療法でも手術療法でもリハビリが重要
目次
- 変形性肩関節症とは
- 変形性肩関節症の診断
- 変形性肩関節症の治療
- リハビリの流れ
1.変形性肩関節症とは
変形性肩関節症の有病率は年齢、人種間で異なることが報告されていて、日本人を含むアジア人は欧米人よりも有病率が低いことが知られています。
40~80歳の一般日本人を対象にした疫学調査においては、単純X線で明らかな変形性肩関節症変化の有病率は17.4%です。
40歳代で1.8%、50歳代で9.6%、60歳代で14.7%、70歳代で26.9%、80歳代で27.5%と、年齢的が高くなるにつれて有病率が有意に高くなるということがわかっています。
変形性肩関節症は明らかな原因の特定できない一次性変形性肩関節症と、他に原因の特定できる二次性変形性肩関節症に分けられます。
一次性変形性肩関節症は、肩関節を構成する軟骨、靭帯、骨組織の退行性変化が強く関与していると考えられていますが、その原因の詳細については分かっていません。
一方、二次性変形性肩関節症の多くは
- 腱板断裂後に進行する関節症:1.5%
- 骨折に続発する関節症:0.2%
の2つであり、一次性変形性肩関節症より有病率は低いと言われています。
主な症状は疼痛と可動域制限で、疼痛と可動域制限は負の関係があると報告されており、疼痛が強ければ強いほど可動域が制限されます。
2.変形性肩関節症の診断
変形性肩関節症の診断は単純X線、CT、MRIを用いて行われます。
多くは単純X線で診断され、Samil-son-Prieto分類が用いられています。
また濱田分類や肩甲骨関節窩形態の分類には、Walch分類が広く用いられています。
| 濱田分類(腱板断裂性関節症:CTA)の分類 | |
|---|---|
| グレード 1 | 肩峰上腕骨間隔 ≥ 6mm |
| グレード 2 | 肩峰上腕骨間隔 ≤ 5mm |
| グレード 3 | 肩峰上腕骨間隔 ≤ 5mm、肩峰の寛骨臼化を伴う |
| グレード4A | 関節腔の狭小のない肩甲上腕関節炎、AHI < 7mm |
| グレード4B | 関節腔の狭小の伴う肩甲上腕関節炎、AHI ≤ 5mm |
| グレード 5 | 腱板断裂性関節症 (CTA)に特徴的な上腕骨頭の虚脱 |
Samil-son-Prieto分類は、上腕骨頭下縁および関節窩下方の骨棘の大きさ、関節適合性により重症度を判断する指標です。
- 軽度:上腕骨頭または関節窩下方に3mm以内の骨棘がある状態
- 中等度:上腕頭または関節窩下方に3mm〜7mmの骨棘と、わずかな関節の不整がある状態
- 重度:上腕骨頭または関節窩下方に7mm以上の骨棘がある状態

Walch分類は
| ①関節窩自体の後捻 ②関節窩後方の関節面の欠損 ③上腕骨頭の後方への亜脱臼 |
上記の3つによって分類分けがなされていて、TypeA2、B2、Cでは関節窩の欠損から関節窩置換が困難となることがあると言われています。
MRIでは腱板断裂や筋萎縮、脂肪変性など、軟部組織の状態を評価することができます。
その他に変形性肩関節症の初期病変も観察することができます。
3.変形性肩関節症の治療
変形性肩関節症に対する治療は内服、注射、リハビリテーション、手術療法などがあります。
肩は常に荷重がかかる関節ではないため、作業中の肩関節の使い方を工夫し肩にかかる負荷を少なくすることも重要です。
保存療法に効果がなく疼痛や機能障害が著名の場合は人工肩関節置換術が適応となります。
腱板断裂がなく、修復可能な場合は解剖学的全人工肩関節置換術(total shoulder arthroplasty:TSA)が適応となります。
解剖学的全人工肩関節置換術以外の手術療法としては、人工上腕骨頭置換術とリバース型人工肩関節置換術があります。
関節窩側を置換しない上腕骨頭置換術は、特に関節窩側の軟骨変性および骨変形がない場合に行われます。
上腕骨頭壊死症や初期の一次性変形性肩関節症などが適応疾患です。
腱板断裂合併例や関節窩骨欠損合併例などで関節窩の置換が行えない症例でも 適応することができ、全人工肩関節置換術と遜色ない結果が得られるとする報告があります。
その一方で、長期的には関節窩変形に伴う疼痛などの症状が出現するため、全人工肩関節置換術を施行する方が良いとする考え方もあります。
リバース型人工肩関節置換術に対してはガイドラインが策定されており、腱板断裂症性関節症の濱田分類グレード4、5、腱板広範囲断裂が適応となります。
これに則した症例においては術前より症状が改善し、良好な成績が期待できると言われています。
4.リハビリの流れ
リハビリにおいては疼痛の軽減及び可動域制限の改善を目的におこなっていきます。
疼痛軽減のためには関節内外にかかるストレスを軽減させることが重要です。
炎症が強く夜間痛がある時期では就寝姿勢を調整することで、疼痛を軽減させ睡眠の質を高めることができます。
炎症がある段階では、臥位姿勢になると関節内圧や骨内圧が高くなり疼痛が発生しやすくなると言われており、姿勢の調整が大切です。
背臥位であれば上腕の下にタオルや枕を入れて高さを出し、肩関節が伸展強制されないように調整をします。

側臥位においては疼痛が出ている肩を下にしないように注意が必要です。
患側を上にし、肩の水平屈曲が起きないように大きめのクッションを抱えるようにして寝ることで肩にかかるストレスが軽減します。

| リバース型人工肩関節置換術後のリハビリテーションの一例 | |
|---|---|
| 装具 | 術後3週間外転装具、その後2週はスリング固定 |
| 翌日~5週 | 肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節の他動運動による可動域訓練 肘関節、手関節の自動運動 |
| 5週~6ヵ月 | スリング固定を外し自動運動開始 徐々に抵抗運動の筋力トレーニングを行う |
リバース型人工肩関節置換術の術後においては、術後3ヵ月、6ヵ月での臨床成績が不良な場合、術後2年時点でも85%で有意な改善を認めなかったと報告されています。
そのため術後5週~6ヵ月は肩関節の機能改善に最も大切な時期だと言えます。
参考文献
- 変形性肩関節症~病態、リスクファクター、治療の最新知見~
- 変形性肩関節症の画像診断
- 変形性肩関節症(人工肩関節置換術)
- RSAの周術期管理とリハビリテーション