~成長期の腰が痛い!それは腰椎分離症かも!?~
腰椎分離症は成長期のスポーツ障害として非常に多い怪我になります。
腰椎分離症は筋肉の問題ではなく、疲労骨折であり骨の問題です。治療せずに無理に練習を続けたりすると骨折が治らなくなる可能性があります。
腰椎分離症で大切なことは早期発見と早期治療です。 スポーツ少年の腰が痛い!を疲労が溜まっているからだと決めつけせず、きちんと医療機関を受診するようにしましょう。
今回はそんな腰椎分離症がテーマです。
ここがポイント!腰椎分離症のまとめ
- 腰椎分離症は成長期のスポーツ障害であり、骨の問題
- 早期発見ができれば骨が癒合する可能性が高い
- 骨癒合までの期間は体育を含めた運動制限が必要
- 腰椎に過度なストレスを与える原因を改善する ・腰椎に過度なストレスをかけないようにするためのスポーツ動作を獲得する
目次
- 腰椎分離症とは
- 腰椎分離症の症状
- 腰椎分離症の好発部位
- 腰椎分離症の診断
- 腰椎分離症の治療
- 腰椎分離症のリハビリの流れ
はじめに
この画像は院長の現在の腰椎レントゲンです。
高校1年生時の柔道の合宿中に第5腰椎分離症を発症し、その後適切な治療を受けなかったため、分離部の骨が治らず腰椎分離すべり症へと進みました。その後も大学生まで腰痛を繰り返しながらもスポーツを続けてきましたが、社会人になった今でも長時間の立位で腰痛が出やすい状態となっています。
1.腰椎分離症とは
腰椎分離症の定義は『関節突起間部の骨性連続性がない状態』を指します。
しかし骨の連続性があっても、進行中の疲労骨折として診断されることがあります。
それがいわゆる『初期分離症』です。
ではなぜ分離症が好発するのが首でも胸でもなく腰なのでしょうか?
それを知るためには解剖学的な特徴を押さえていく必要があります。
腰椎とは、脊柱(背骨)の中の1つで、頭の方から首の骨の頚椎が7個、胸の骨の胸椎が12個、腰の骨の腰椎が5個、仙骨・尾骨が連なっています。
この脊柱は仙骨・尾骨を除き24個の骨が積木のように積み重なっていて、それぞれの骨の間に関節があり、そこを起点に動く構造です。
各関節には特徴があり、頚椎や胸椎は回旋をすることもできますが、腰椎は構造的に回旋するようにできていません。
そのため、腰椎の上下に位置している股関節と胸椎の動きが硬くなってしまうと、回旋ができない腰椎に過度な負担をかけることになります。
腰椎分離症の発生頻度はアスリートの15~47%と報告されています。スポーツ活動の盛んな小中学生の腰痛が2週間以上続いた場合、MRI検査では小学生の約45%、中学生の約45%、高校生の約30%が腰椎分離症であったとする報告があります。発症年齢はおよそ8歳から16歳程度と幅広く、週に4・5回以上のスポーツ活動を継続している場合や、中学入学後や合宿時といった運動量が急激に増加する際に発症する傾向が高くなります。
つまり、スポーツ活動が盛んな成長期の子供の腰痛が2週間以上継続するような場合、なるべく早く詳しい検査を行うのが望ましいと考えられます。
2.腰椎分離症の症状
腰椎分離症における自覚症状は腰椎伸展・回旋動作で増強する痛みが典型的とされています。
それは腰椎の椎間関節には側屈と対側回旋によって1番ストレスが増大すると言われていて、骨の剪断ストレスは骨同士の接触によって起こると考えられるからです。
側屈動作をすると、側屈した側は伸展時と同じように関節面が接近します。
つまり関節の接触圧が増大する肢位は骨へのストレスも増大する肢位に近しいと考えることができます。
分離症は疲労骨折した周囲の疼痛が主であり、片側の骨折であれば片側性の痛みを訴えるケースが多いです。
しかし骨折は両側性に起こるケースもあり、その場合は当然両側性に痛みを訴えることがほとんどになります。
腰椎分離症を伴っている症例では、腰椎の椎間関節にも痛みをきたしていることもあります。
その場合は、関節部位や骨折部位のみならず、臀部から大腿後面、下肢へ放散する症状が出現することも頭に入れなければなりません。
椎間関節は脊髄神経後枝内側枝に支配されていて、この神経が刺激されることで関連痛として臀部から下腿後面へ痛みが広がることが報告されているからです。
特に分離症好発部位である腰椎5番は下肢への放散痛が出現する可能性が高い場所になります。
3.腰椎椎分離症の好発部位
腰椎分離症の好発部位は腰椎の最も足側にある第5腰椎であり、分離症の85~95%と言われています。
なぜ第5腰椎に多いかというと、腰椎は回旋しにくい構造であることに加えて、第5腰椎とその下にある仙骨の骨の向きに特徴があるからです。
各椎体の間の関節を椎間関節といいますが、第5腰椎の関節面が前向きであるのに対し、仙骨の関節面は後ろ向きであるため、骨同士が接触すると強い剪断力を受ける構造になっています。また第5腰椎は他の腰椎と比較して血行が乏しく骨が治りづらくなっています。
このような解剖学特徴から、第5腰椎に分離症が多いと言われています。
分離症発生に関連する要因としては以下の4つが挙げられています。
- 遺伝的要因
- 形態的要因
- 身体機能による要因
- スポーツ環境による要因
この中でリハビリによって改善できる可能性があるのが身体機能とスポーツ環境による要因です。
何が原因となっているかを見極めてアプローチをしていくことが重要になります。
4.腰椎分離症の診断
腰椎分離症を疑う上で重要な所見として、背中から触れる棘突起上の圧痛、腰椎伸展時痛が挙げられます。特に棘突起の圧痛は重要な検査項目です。
整形外科的テストとしては、片脚立位での腰椎伸展時痛やKemp testが参考になります。
Kemp testは立位で腰椎を伸展した状態から左右に体を側屈させ、傾けた側に下肢痛が生じた場合を陽性とするテストです。
しかし徒手的な検査では診断精度が低いため、画像所見を組み合わせて評価をすることが大切になります。
画像所見として有用なものは、レントゲン、MRI、CTです。
腰椎分離症の病態を超初期、初期、進行期、終末期と4つに分けた時に、レントゲンでは進行期から終末期しか分からないと言われています。
もし進行期以降であれば、犬が首輪をしているように見える『スコッチテリアサイン』が認められます。
また、超初期、初期の診断をするためにはCTやMRI検査が必要です。
そのためレントゲンで異常が無くても、CTやMRIも含めて腰の状態を評価していくことが大切になります。 近年ではC Tによる被爆を避けるために、MRI画像をC T様に加工したC T like MRIが用いられるようになりました。
5.腰椎分離症の治療
状態にもよりますが、腰椎分離症の運動制限による保存療法期間はおよそ3ヶ月間、最長で6ヶ月間になります。
なぜなら3ヶ月間の保存療法にて初期の分離症であれば87%の骨癒合を認めたという報告があるからです。この期間は学校の体育を含めたスポーツ活動の禁止と、作成したコルセットを就寝時以外着用して腰椎を固定します。また適切なリハビリテーションを受ける事が必要となります。
保存療法3ヶ月の時点で骨癒合の画像評価を行い、骨癒合が不十分であれば、安静期間をさらに延長し骨癒合を待つ事もあります。痛みが引いたからといって、安静を保たずに運動を再開してしまうと、骨がなかなか治らず時間がかかってしまったり、骨癒合自体が得られなくなってしまうこともあります。
保存療法後も骨癒合が得られなかった場合や、診断時点で骨癒合が期待できない場合、あるいは中学、高校の最終学年の最後の試合を控えている場合などでは、患者さんの希望を踏まえて疼痛に応じてリハビリを行い順次スポーツ復帰を目指していきます。
分離症が悪化して腰椎がズレる腰椎すべり症に移行すると、下肢の痺れや痛みを引き起こしてしまうことがあります。特に低学年での発症では分離すべり症へ移行する率が高くなるため継続的な注意が必要です。分離症を分離すべり症へ移行させないことも、分離症の治療上、重要な点となります。
日常生活では特に腰を反る動きに注意が必要です。 例えばうつ伏せ寝を避けたり、重い荷物は極力背負わない様にしましょう。
6.リハビリの流れ
リハビリでは骨癒合を目指す場合も目指さない場合も、腰椎の状態を考慮して腰椎にかかるストレスを軽減させるということが大変重要です。
炎症期(受傷から1週間程度)
炎症を起こしている間は、なるべく患部に負担がかからないようにする必要があります。
特に腰椎の伸展、側屈、回旋の動きは行わないようにします。
この時期は患部以外の関節のストレッチや痛みが落ち着いていれば体幹トレーニングを中心に行います。特に股関節から胸椎の柔軟性を改善していくことが重要です。
『腰椎分離症とは』で説明をしたように、腰椎は回旋をする構造になっていません。回旋の動きを担うのが股関節と胸椎です。
そのためストレッチでは股関節と胸椎を中心に行い、トレーニングは体幹トレーニングを行い、腰椎を安定できるようにしていきます。
骨癒合時期(2週間〜3ヶ月)
炎症期ではどの動作でも痛みを伴うことが多いですが、炎症期を過ぎると徐々に痛みが引いてきて、無理をしなければあまり痛みが感じなくなります。
しかし骨癒合するまでにはおおよそ3ヶ月かかります。そのため3ヶ月の間は腰椎にストレスをかけないように引き続きリハビリを行なっていく必要があります。
疼痛軽減と伴に徐々にストレッチやトレーニングの強度を高めていきます。
体幹トレーニングでは、プランクやサイドプランクを行なったり、腰椎を安定させた状態で手足を動かしたりしていきます。
またスクワットなどの下肢のトレーニングも重要です。 スクワット動作でも腰椎伸展で動作を代償しないように確認をしながら行なっていくことで、スポーツ動作に繋げていきます。
復帰を目指す(3ヶ月〜)
骨癒合が完了してきたら、徐々にスポーツへの復帰を進めていきます。
骨癒合の評価に関してはMRIやCTを用いて行います。
レントゲンの場合は末期状態しか判断がつかないため、MRIやCTを用いないと骨癒合の判断ができません。 スポーツ競技復帰に向けたトレーニングとしては
- 体幹を固定し上半身と下半身を連動させるトレーニング
- ジャンプ系のトレーニング
- 腰に負荷の少ないフォームを保つトレーニング
などを行っていきます。
それらのトレーニングを行った上で復帰に際しては
- 腰の関節に負担をかける原因が取り除けているか
- 競技動作に近い動きをして、動作に問題がないか
- 筋力や関節可動域は競技を行うために充分か
などを確認します。
競技復帰は段階的にレベルを上げていきます。
まずはjogから開始をして徐々に走る速度を上げていき、ダッシュや切り返し動作を行っていきます。
野球のバッティング動作やバレーボールのスパイクを打つ動作は腰椎に負荷がかかりやすいため注意をしながら進めていく必要があります。
参考文献
- 脊椎保存療法のリハビリテーション
- 脊柱疾患のリハビリテーションの科学的基礎