下前腸骨棘裂離骨折について

成長期の股関節の突発的な痛みは下前腸骨棘裂離骨折かもしれません。
骨が脆弱な時期では、骨よりも靭帯組織の方が強力であるため、靭帯損傷ではなく裂離骨折が起こります。

股関節の突発的な痛みかつ、歩行困難を呈しているようであれば注意が必要になります。

  • 裂離骨折は突発的な痛みかつ歩行困難を呈することが多い
  • 受傷早期は松葉杖による免荷を行うこともある
  • 骨組織の問題であるため、骨癒合を阻害しないことが大切
  • リハビリではレントゲンの状況を医師に確認しつつ慎重に進める
  • 下前腸骨棘に付着する大腿直筋の柔軟性の改善を図る

目次

  1. 下前腸骨棘裂離骨折とは
  2. 下前腸骨棘裂離骨折の診断
  3. 下前腸骨棘裂離骨折の治療
  4. リハビリの流れ

1.下前腸骨棘裂離骨折とは

裂離骨折とは筋肉や腱によって伸長された骨の付着部が剥がれた状態をいいます。

下前腸骨棘裂離骨折とは、骨盤の骨である下前腸骨棘に付着する大腿直筋の影響で、骨が剥がれた状態を指すのです。

もともと骨盤の裂離骨折は1912年に報告され、その後成長期のスポーツに関連した特徴的な骨折として報告されました。
小児における骨折の1.4%といわれており、成長期のスポーツ選手の診療ではたびたび遭遇します。
骨疾患であるため見逃さないようにする必要があるのです。

骨盤周辺の裂離骨折は上前腸骨棘(ASIS)、下前腸骨棘(AIIS)、坐骨結節、腸骨稜に起きるとされていますが、上前腸骨棘(ASIS)、下前腸骨棘(AIIS)、坐骨結節の3つで全体の約90%を占めます。
坐骨結節が12%、上前腸骨棘が32%、下前腸骨棘が46%となっていて、下前腸骨棘の裂離骨折が最も頻度として高い疾患となっています。

受傷起点としては、急激な筋収縮を伴う動作を要するキックやジャンプ、ダッシュなどで生じると言われています。
そのため、短距離走など陸上競技による受傷が最多の40%を占めていて、サッカーなどのキック動作と合わせると全体の約70%を占めます。

好発年齢は10歳~18歳ごろの成長期に生じやすいとされていて、好発の平均年齢は14歳です。
症状としては、急激な股関節の痛みで歩行障害を主訴として受診することが多いと言われています。

2.下前腸骨棘裂離骨折の診断

一般的に単純X線で裂離骨折を確認し、診断されます。

しかし小児の場合、骨端線が存在しているため通常の骨端線であるかの評価が難しいと言われています。そのため股関節のX線は正面像だけではなく、側面像も撮影します。

側面像の中でも股関節ラウエンシュタイン像で骨片の転移が見つかり診断がつくことが多いです。
股関節ラウエンシュタイン像は患側を股関節45度屈曲位、健側の股関節を屈曲、外転45度の肢位にして撮影をします。
またX線の読影のためにも、二次骨化中心の出現時期や骨端線の閉鎖時期を知っておくこと、健側と画像を比較することが重要です。

下前腸骨棘は13~15歳で二次骨化中心が出現し、16~18歳で骨端線が閉鎖します。
つまり、16歳以下の青年期の股関節痛には、今回の下前腸骨棘裂離骨折を視野に入れなければならないのです。

X線で診断がつかない場合は、MRIやCTを行うこともあります。
骨片の転移にはCTが有用で、筋・腱の損傷や断裂などの診断にはMRIが有用です。

また、骨軟骨腫やEwing肉腫との鑑別が重要と言われています。骨軟骨腫は別名、外骨腫とも呼ばれていて、骨腫瘍のなかで最も多い良性腫瘍です。
本来と異なる部位に正常骨髄と連続した骨・軟骨が形成され、通常の骨の成長とともに角のように大きくなったもので、成長期の疾患になります。

Ewing肉腫は主に小児から若年成人に多く発症する骨軟部肉腫であるといわれていて、やや男性に多いと言われています。

いずれにしても、動作に関連しない痛みや夜間に増強するなど運動器の症状と異なる症状を呈することあるので、その部分の聴取も大切です。

3.下前腸骨棘裂離骨折の治療

下前腸骨棘裂離骨折は保存療法、手術療法ともに90%以上の高い復帰率を示しています。

保存療法

骨片の転移が軽度の場合は保存療法を行います。
受傷早期のタイミングでは骨にストレスをかけないようにするため松葉杖による免荷とします。

完全免荷として股関節が屈曲位となると大腿直筋が緊張してしまうため、場合によってはつま先だけ軽く接地してなるべく大腿直筋の収縮が入らないような状態を保つことが重要です。

手術療法

骨片が2cm以上の転移では骨癒合不全や関節唇損傷、股関節前方インピンジメントが生じることが報告されています。そのため、2cm以上の転移を認める症例には手術が適応となります。

手術ではスクリューを用いて骨を固定します。
侵入する際はSmith -Petersen approachという方法があり、股関節周囲筋を一切切離せずに縫工筋、大腿筋膜張筋の間から患部を固定する方法が侵襲を少なくすることができます。

手術療法においては異所性骨化が生じやすいことが報告されているため、スクリューの抜去時には骨化部位を切除することもあります。

4.リハビリの流れ

下前腸骨棘裂離骨折に対するリハビリテーションで確立されたものは今のところ存在しません。
そのため、受傷後早期は患部にかかるストレスを最小限にすることが重要で、なるべく大腿直筋に収縮が入らないようにします。

受傷後早期

受傷後早期は安静臥床を優先し、疼痛の軽減に応じて松葉杖歩行へと段階的に進めていきます。
松葉杖歩行の時は基本的に完全免荷とし、難しい場合は先述したようにつま先だけ軽く接地し、なるべく大腿直筋の収縮が入らないような状態を保ちます。
特に受傷後1週間程度の間は上記を意識します。

リハビリにおいては、受傷後早期は大腿直筋の緊張を軽減させることが大切です。
1週までの間は徒手療法を用いて緊張を軽減させるようにすることで、患部にストレスがかからないようにします。で四肢を動かすようなことをすることで、CKC動作におけるアライメントの改善を促していきます。

受傷後2~3週後

受傷後2~3週後はX線による医師の判断の基、徐々に可動域訓練を行っていきます。
また、患部外のトレーニングも行い、下前腸骨棘にストレスがかかった原因を取り除いていくことも重要です。

受傷後約1ヶ月

受傷から約1ヶ月経過し、X線で仮骨の形成も明瞭となり、医師から許可が出た時点で徐々に患部ストレッチと筋力トレーニングを行っていきます。
負荷は段階的に高めていくようにして、骨の痛みが出ないか注意をしながら進めていきます。

受傷から1ヶ月経過した後は徐々にトレーニングの強度を高めていき、復帰に向けた準備をしていきます。患部のストレッチや筋力トレーニングは継続的に行い、CKCのトレーニングを行うことで徐々に競技動作に近づけていきます。

下前腸骨棘裂離骨折は、キック動作に多く発症することが報告されているため、キック動作の改善も非常に重要です。
キック動作はクロスモーションと言って、蹴り足の股関節伸展と対側の上肢の伸展を行うことで、伸長反射を上手く使い患部にかかるストレスを軽減します。

この動作の時には体幹が安定している必要があるため、体幹トレーニングも同時に進めていくことが重要で、体幹を安定させたまま上下肢をコントロールするようなブレーシングのトレーニングが有効です。

受傷後2ヶ月以降

受傷後2ヶ月以降は徐々に競技復帰をしていきます。

競技復帰をする際には必ず骨癒合が得られていることが必要です。X線の評価で医師より許可が出たら段階的に競技復帰していきます。

競技復帰をする際はもちろん徐々に負荷を高めていくことが必要です。
ランニング(約5割程度)から開始し、徐々にスピードを高め、ダッシュへと近づけていきます。
急激なストップ動作や急激な切り返し動作でもストレスがかかるため、このような動作は基本的には直線的なダッシュが可能となってから、徐々に進めていきます。

下前腸骨棘裂離骨折は骨の問題であり、16~18歳ごろの骨癒合する時期を超えるまでは再発する可能性もあります。
そのため競技復帰後も同じような疼痛が出現しないか確認し、もし疼痛が出現した場合はすぐに受診をして骨に異常がないか確認することが大切です。

手術を行なった際も復帰までの大まかな流れは同じになります。

いずれにしても骨の問題であるため、初期は患部にストレスをかけず、強度を上げる際には骨の状態を考慮することが何より重要です。

参考文献

  • Apophyseal avulsion fractures of the pelvis. A review
  • 股関節のスポーツ診療のすべて

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西国立整形外科クリニック
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(診療科目)
一般整形外科、リハビリテーション、スポーツ整形外科、骨粗しょう症、漢方内科
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