上腕二頭筋長頭腱炎について

上腕二頭筋長頭腱炎は肩前面部の痛みを誘発する代表的な疾患です。
投球動作に伴って上腕二頭筋長頭腱が損傷したり、それに伴い上腕二頭筋長頭腱の付着部である肩の上方関節唇も損傷したりすることがあります。

上腕二頭筋長頭腱炎の背景にはinternal impingementやpeel back mechanismが関与していると言われているため、それらを改善していくことが大切です。


また腱板の機能不全も上腕二頭筋長頭腱炎に関連があるため、肩のトレーニングも進めていく必要があります。

  • 上腕二頭筋長頭腱炎は肩前面の疼痛をきたす代表的な疾患
  • オーバーヘッド動作に伴う損傷が多い
  • 検査は1つではなく組み合わせ行うことが重要
  • 投球動作改善のためには肩のみならず、股関節周囲の機能改善も必要
  • 手術療法では競技の完全復帰率が低下するため保存療法を中心に行う

目次

  1. 上腕二頭筋長頭腱炎とは
  2. 上腕二頭筋長頭腱炎の合併症
  3. 上腕二頭筋長頭腱炎の診断
  4. 上腕二頭筋長頭腱炎の治療
  5. リハビリの流れ

1. 上腕二頭筋長頭腱炎とは

上腕二頭筋は短頭と長頭に分かれていて、その中でも上腕二頭筋長頭腱は肩関節をまたいで付着している筋肉です。

上腕二頭筋長頭腱は肩甲骨関節上結節および上方関節唇から起始し、関節内では烏口上腕靱帯や関節包、上関節上腕靭帯に支えられながら結節間溝で大きく走行を変化させるという特徴があります。

遠位に向かうに連れて、大結節と小結節の間で構成される結節間溝を通過します。
この腱を安定させるように横靭帯(肩甲下筋舌部)が存在し、上から腱を押さえるような役割をしています。

上腕二頭筋長頭腱炎は反復的な牽引ストレス、摩擦ストレス、上腕骨の回旋による腱への圧迫力と剪断力が原因と言われています。
また上腕二頭筋長頭腱には滑膜鞘があるため、腱鞘炎が起こりやすいとも言われています。

好発部位は、

  1. 起始部(上方関節唇)
  2. 結節間溝へと大きく走行を変える部位
  3. 結節間溝内

これらの3ヶ所と言われており、結節間溝へと大きく走行を変える部位では、上腕二頭筋長頭腱の内側への不安定性が生じるとも言われています。

上腕二頭筋長頭腱が上腕二頭筋長頭腱炎へ進行する病態生理学的なメカニズムは不明ですが、いくつか発生機序が報告されています。

昔はインピンジメントによる炎症、上腕二頭筋長頭腱の不安定性、摩擦による炎症などが考えられていました。
しかし近年では腱板損傷やインピンジメント症候群などによって、骨頭の求心性低下や上腕二頭筋長頭腱の不安定性が出現し、二次的に上腕二頭筋長頭腱炎が発症すると言われています。

一次性の上腕二頭筋長頭腱炎は約5%と稀です。
さらに一部の研究では上腕二頭筋長頭腱の炎症性変化と回旋筋腱板障害には相関があると言われていて、回旋筋腱板の変性が進むほど上腕二頭筋長頭腱の炎症性変化が起こりやすくなることが報告されています。

2. 上腕二頭筋長頭腱炎の合併症

上腕二頭筋長頭は上方関節唇に付着しているため、好発部位でも記載した上方関節唇部分の損傷が起こることもあります。

この上方関節唇損傷のことをSLAP(superior labrum anterior and posterior)損傷と呼びます。

SLAP損傷は合計で7つのタイプに分類分けされていて、臨床上最も遭遇頻度が高いのはTypeⅡであると言われています。

TypeⅠ上方関節唇の毛羽立ち
TypeⅡ上方関節唇付着部が肩甲骨関節窩から剥離
TypeⅢ上方関節唇のバケツ柄断裂
TypeⅣ上方関節唇のバケツ柄断裂が上腕二頭筋長頭腱にまで及ぶ
TypeⅤBankart損傷が上方まで波及し、上方関節唇付着部が肩甲骨関節窩から剥離
TypeⅥ上方関節唇付着部が肩甲骨関節窩から剥離し、不安定なフラップ損傷を伴う
TypeⅦ上方関節唇付着部が肩甲骨関節窩から剥離し、それがMGHL(中関節上腕靭帯)下縁まで及ぶ

SLAP損傷の発生機序は、外傷性とOver useによる慢性障害に分けられます。

慢性障害では投球動作のようなオーバーヘッドスポーツに多く発生します。

特に後期コッキング期では肩が最大外旋して、internal impingementやpeel back mechanismが起こることがあります。

Internal impingementは関節窩後方で上腕骨頭と腱板、後上方関節唇が挟み込まれる現象です。
その結果、後上方関節唇を中心に損傷が起こり、損傷が広がると上方関節唇まで拡大します。

Peel back mechanismは肩関節過外旋時に上腕二頭筋長頭腱の基部から後方に捻れることにより、関節唇上方部に牽引力が働く現象です。
主に上腕二頭筋長頭腱関節唇複合体(biceps labrum complex)損傷などが認められます。

3. 上腕二頭筋長頭腱炎の診断

上腕二頭筋長頭腱炎の診断は圧痛、整形外科テスト、画像検査の組み合わせによって行います。

単純X線では関節唇の状態は不明なためMRIが必要です。
MRIでは感度63%、特異度90.7%と感度低いのですが、関節造影MRIでは感度が80.4%にまで上昇すると報告されており、有用だと言えます。

徒手検査においては単独の検査では感度・特異度が低いため検査の精度が低いです。
そのため、単独の検査ではなく複数の検査を組み合わせることが重要で、検査を複数組み合わせることにより感度・特異度を高めることができます。

SLAP損傷の組み合わせ徒手検査感度(%)特異度(%)
雑音、クリック、引っかかりの既往+anterior slide test4093
Compression rotation test+apprehension
test+Yergason test
1296
Compression rotation test+apprehension
test+biceps load II test
2690
上腕二頭筋長頭腱炎の組み合わせ徒手検査感度(%)特異度(%)
Speed test + 超音波検査9479
Yergason test + 超音波検査9377
結節間溝圧痛 + 超音波検査9571
Uppercut test + 超音波検査9776
結節間溝圧痛 + uppercut test8856
結節間溝圧痛 + speed test8058
結節間溝圧痛 + Yergason test7557

上記のように単独ではなく、組み合わせて肩の診断を行っていくことが大切です。

 4. 上腕二頭筋長頭腱炎の治療

保存療法においては、炎症が生じている場合は炎症を鎮静化するために症状を悪化させる動作を休止する必要があります。
また、肩峰下腔や肩甲上腕関節内、結節間溝への非ステロイド性の抗炎症薬やヒアルロン酸の注射を行います。

手術では上腕二頭筋長頭腱の固定術または切離術の適応となります。
ただしオーバーヘッドスポーツスポーツ競技者は術後の完全復帰率が低いと言われているため、手術療法ではなくなるべく保存療法で経過を見ることが大切です。

切離術は関節包内で切離し、そのまま放置する方法になります。
切離をした場合は上腕の筋腹が下垂するポパイ変形が起こる可能性あり、若干の筋力低下が起こると言われています。

固定術は結節間溝などに固定し機能的な連続性を保つ方法です。

切離術と固定術はポパイ変形以外の有意な差はないと言われていますが、筋力低下の観点から固定術を行うことが多いと言われています。

5.リハビリの流れ

リハビリではオーバーヘッドスポーツであれば、投球フォームの改善が必要です。
また上腕二頭筋長頭腱炎の背景にある腱板の機能不全、インピンジメントを改善していくことが大切になります。

インピンジメントは肩甲帯の機能不全や肩関節の後方タイトネスによって引き起こされます。
肩の後方タイトネスの評価はCAT (Combined Abduction Test)やHFT(Horizontal Flexion Test)で確認を行います。

肩甲帯周囲の筋肉においては、前鋸筋と僧帽筋下部が重要でこれらの筋が肩甲骨上方回旋や後傾を誘導します。
肩甲骨の上方回旋と後傾は、投球動作の特に後期コッキング期のみならず、上肢挙上の動作の際にも必要不可欠な動きです。

肩甲帯の機能評価はScapula Assistance TestやEPT(Elbow Push Test)や僧帽筋下部のMMTを行い、機能評価をします。

投球動作の改善を考えた場合は、肩、肩甲帯だけではなく、股関節の機能改善も行います。

ステップ動作の時やボールリリースからフォロースルーの時に股関節の伸展や外転、屈曲、内転、内旋などの可動域を確認し、制限があれば可動域の拡大のためのストレッチをします。

参考文献

  • Pain and the pathogenesis of biceps tendinopathy
  • Physical therapy interventions used to treat individuals with biceps tendinopathy: a scoping review
  • 整形外科医のための肩のスポーツ診療のすべて
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クリニック名
西国立整形外科クリニック
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(診療科目)
一般整形外科、リハビリテーション、スポーツ整形外科、骨粗しょう症、漢方内科
住所
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