腱板断裂について

肩関節の腱板断裂の割合は年齢と伴に高くなり、70代、80代においては約2人に1人が腱板断裂を起こしていると言われています。

ただし、全員が疼痛を抱えているというわけではなく、痛みや運動障害のある症候性断裂と症状の無い無症候性断裂に分かれます。

利き腕、肩のインピンジメント、外旋筋力の低下があると症候性の腱板断裂になるリスクが高くなると言われています。 腱板断裂をしたから腕が上がらなくなるわけではないですが、複数の筋が断裂している場合、保存療法では偽性麻痺(あたかも神経が麻痺している様に見える状態)が起こる可能性があります。

  • 腱板断裂は70代から80代の約2人に1人は起こっている
  • 症候性断裂と無症候性断裂がある
  • 断裂筋によっては偽性麻痺が起こる事がある
  • 必要に応じて手術療法を行う必要がある
  • 保存療法では残存筋の腱板と肩甲胸郭関節のトレーニングを中心に行う

目次

  1. 腱板断裂とは
  2. 腱板断裂で腕は上がらなくなるのか
  3. 腱板断裂の診断
  4. 腱板断裂の治療
  5. リハビリの流れ

1. 腱板断裂とは

腱板断裂とは、腱板を構成する棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉の一部または全てが断裂した状態を指します。

腱板断裂について

腱板断裂は発症様式で大きく2つに分けることができます。

  • 外傷性断裂…転倒などの外傷を契機として起こる損傷
  • 変性断裂…加齢などの退行性変化に起因する損傷

腱板断裂においては、変性断裂が8割とされていて外傷性と比較して圧倒的に多いと報告されています。

変性断裂の因子は内因性と外因性の2つがあります。

  • 内因性:血流変化、弾性変化、喫煙
  • 外因性:肩峰下インピンジメント、オーバーユース、生来の関節の状態など

50代で約10%、60代で約20%、70代で約40%、80代で約50%と70代から80代の方の2人~3人に1人は変性断裂をしているということが報告されています。

ただしこの腱板断裂は症候性、無症候性、関係なく調査した割合です。
無症候性腱板断裂の人はどの年代においてもおおよそ60%程度となっています。
つまり2人に1人以上は特に症状を有さない腱板断裂となっていて、肩に症状を有していないのです。

症候性断裂と無症候性断裂の違いとしては

①利き腕側の罹患か否か
②インピンジメント(衝突)兆候
③肩外旋筋力低下の有無

が挙げられています。

利き腕の場合は約3倍、インピンジメント兆候が陽性の場合は約10倍、外旋筋力が低下している場合は約3倍も症候性のリスクが高いです。

このように腱板断裂は年齢とともに発症率が上昇しますが、その中でも症候性と無症候性に分かれます。

2. 腱板断裂で腕は上がらなくなるのか

腱板断裂では腕が上がらなくなるというイメージがありますが、果たして本当にそうなるのかという部分をお伝えします。

腱板断裂によって腕が上がらなくなった状態を偽性麻痺といいます。
定義としては『自動挙上で90度以上腕が上がらないものの、他動では可動域が保たれているもの』とされています。

偽性麻痺が起こるのは、腱板断裂のパターンによって変化します。

Type 断裂筋 偽性麻痺の割合
TypeA 棘上筋、肩甲下筋上部の断裂 0%
TypeB 棘上筋、肩甲下筋上部、肩甲下筋下部断裂 80.0%
TypeC 棘上筋棘下筋、肩甲下筋上部断裂 45.4%
TypeD 棘上筋、棘下筋断裂 2.9%
TypeE 棘上筋、棘下筋、小円筋断裂 33.3%

このように報告がされており、3つ以上の筋の断裂が起こると偽性麻痺が生じやすいことが分かります。

すなわち、腱板断裂が起こったから腕が上がらなくなる、というわけではなく、どこの筋が断裂するかによって変化するのです。

3. 腱板断裂の診断

腱板断裂は部分断裂と完全断裂の2つに分かれています。

断裂の程度やどの部分が断裂しているかによって、さらに細かく分類分けがなされています。

腱板断裂の分類

  • 全層断裂
  • 不全(部分)断裂
部分断裂の分類 全層断裂の分類(Cofield分類)
関節面断裂 小断裂(1cm<)
滑液包面断裂 中断裂(1~3cm)
層間剥離 大断裂(3~5cm)
  広範囲断裂(<5cm)
  • 関節面断裂…腱板付着部の深層側の断裂で91%の割合で発生。
  • 滑液包面断裂…腱板付着部の表層側の断裂で2.9%の割合で発生。
  • 層間剥離…腱板の実質の一部の損傷で33%の割合で発生。

部分断裂においては、複数の断裂形態が合併していることもあるため、それぞれの合計で100%の割合にはなりません。

腱板断裂の検査

診断には超音波(エコー)検査、MRI、診察所見を参考にして行います。

エコー検査は勘弁に行うことができ、繰り返し観察できることやすぐに左右を比較できることなどが利点として挙げられます。
感度91%、特異度86%と高い値を示しており、腱板断裂の診断に有効な検査方法です。

X線では腱板自体が映らないため、直接腱板断裂の有無を診断することはできませんが、骨の棘や、大結節、肩峰の石灰や骨硬化像を確認することができます。

また、腱板断裂が起こると三角筋が優位になるため、上腕骨頭が上方に移動します。
その結果、肩峰骨頭間距離(AHI)が短縮するため、AHI 6mm以下では腱板断裂とされています。

MRIでは腱板断裂の有無や種類、腱板の萎縮や脂肪浸潤の程度が評価できます。
臨床所見ではどの腱板が損傷しているかによって、臨床検査で陽性となるテストが変わってきます。

  • Full can test
  • Empty can test
  • Hornblower’s test
  • External rotation lag sign test
  • Internal rotation lag sign test
  • Lift off test
  • Belly press test
  • Bear hug test

などなどたくさんの検査方法があるため、これを正確に行える必要があるのです。

4. 腱板断裂の治療

腱板断裂の治療は保存療法および手術療法があります。

一次修復可能な腱板断裂に対する治療として、鏡視下腱板修復術(arthroscopic rotator cuff repair:ARCR)が主流となっています。
鏡視下腱板修復術のメリットは、さまざまな角度から断裂腱を確認し、そのリリースおよびモビライゼーションが可能であること、断裂腱に至適な位置、角度で糸をかけられること、と言われています。

手術方法にはsingle-row、double-row、triple-row-、Suture bridge法などがあります。
再断裂率に関してはdouble-row とsingle-row法を比較すると、single-row法の方が劣ると報告されています。
特に術前の断裂サイズが大きい場合にはsingle-row法では再断裂率が高いため、中断裂以上には別な手術方法が好ましいです。

Suture bridge法とtriple-row法を比較検討した報告では、大きな再断裂がtriple-row法では有意に減少し、特に術前の断裂サイズが大きい場合に再断裂が抑制されるとしています。
このように手術方法にはそれぞれ特徴や効果に違いがあるため、術前の腱板の損傷状態を考慮して行う必要があるのです。

保存療法では、残存している腱板の機能を高めること、肩甲胸郭関節の機能を高めること、胸椎の伸展機能を高めることを中心に行なっていきます。

5. リハビリの流れ

リハビリでは保存療法か手術療法かによって流れが変わります。

保存療法では、まず受傷直後の炎症が強い時期は消炎鎮痛を中心に行います。
また寝る時の姿勢も重要で、肩が伸展しないようにするために枕やタオルなどを入れて高さを調整することが重要です。

加えて患側の肩が下にならないように、基本的には背臥位か患側が上の側臥位を保つようにします。
その際も枕やクッションなどを抱えるようにして、肩が水平屈曲強制されないようにすることが重要です。

腱板断裂について

炎症が落ち着き、疼痛が緩和してきたら残存機能を高めるトレーニングを中心に行なっていきます。

腱板断裂について

特に残存している腱板筋のトレーニングと肩甲胸郭関節が重要で、断裂している筋によっては可動域もほとんど健側と遜色ない状態まで回復が見込めます。

手術療法では段階的にリハビリを進めていきます。
術後1~4週までは装具を装着し、日常生活動作獲得を目標にリハビリをします。
ARCRではやや外転位で縫合するため、装具は肩関節を外転位で固定し術部に伸長ストレスがかからないようにすることが必要です。

最初は肘関節の運動や肩甲胸郭関節の運動や胸椎の運動を行い、患部外の関節の可動域を保ちます。
肩甲上腕関節に関しては、術後1週から他動的に肩甲平面での90度挙上まで行います。
術後4週からは90度までの自動介助運動を行い、徐々に可動域を向上させていきます。

術後3週からは等尺性の筋力訓練を進めていきますが、術後3ヵ月までは組織の修復期間として重要なタイミングになるため、過度な負荷には注意しなければなりません。

術後3ヵ月以降は徐々に腱板への負荷を高めたトレーニングなどを行なっていき、6ヵ月経過した時点で徐々にオーバーヘッド動作などを行います。

その後徐々に日常生活やスポーツ復帰を目指していきます。

参考文献

  • Pseudoparalysis: a Systematic Review of Term Definitions, Treatment Approaches, and Outcomes of Management Techniques
  • 整形外科医のための肩のスポーツ診療のすべて
  • 腱板断裂のリハビリテーション ―保存加療から術後後療法を含めて―
  • Pseudoparalysis: a systematic review of term definitions, treatment approaches, and outcomes of management techniques
  • Relationship Between Massive Chronic Rotator Cuff Tear Pattern and Loss of Active Shoulder Range of Motion

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一般整形外科、リハビリテーション、スポーツ整形外科、骨粗しょう症、漢方内科
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