〜たかが『ねんざ』を長引かせないために大事な対処法とは?〜
ふだん何気なく歩いていたり、スポーツの最中に足首を突然“グキッ”と捻ってしまった事はありませんか?
今回お話しする足関節捻挫とは、足首を強く外側に向かって捻ったり(内反:ないはん)、逆に内側に向かって捻ること(外反:がいはん)で足首や足の甲の靭帯に損傷が起こる事を意味します。
足関節の靭帯構造や症状、検査と診断、治療と予防、完治までの期間に加えて、“歩けるけど痛い”、“くるぶしが腫れて痛い”、“放っておいていいのか?”、“応急処置はどうすればいい?”、“なかなか治らない”などの疑問に答えていきます。
【ここがポイント!足関節捻挫まとめ】
- 足関節捻挫はそのほとんどが内反捻挫による足関節外側靭帯損傷
- 足関節捻挫では主に外側靭帯である前距腓靭帯と踵腓靭帯が損傷を受けやすい
- 足が着けないほど腫れや痛みが強い場合、骨折が隠れていることもある
- 重症度によって治療方法や期間は変わる
- 応急処置は3日間のR I C E処置が重要
- 痛みが和らいで来たら、軽く足を着いたり足首を少しずつ動かしても良い
- 捻挫を長引かせないためには、初期の適切な診断と治療、リハビリが必要
目次
- 足関節の靭帯構造
- 足関節捻挫の症状と注意点
- 足関節捻挫の診断
- 足関節捻挫の重症度と治療のながれ
- 足関節捻挫の応急処置
- 足関節捻挫のリハビリ
- 足関節捻挫に伴う合併症
1.足関節の靭帯構造
足関節捻挫には、内反捻挫(足首を外側に向かって捻る)と外反捻挫(足首を内側に向かって捻る)がありますが、そのほとんどが内反捻挫です。そのためここでは主に内反捻挫について解説していきます。
足関節には距腿関節、距骨下関節の2つの主要な関節があり、これらの関節を安定化させるための靭帯が複数存在します。足関節捻挫で最も損傷されやすい靭帯は、前距腓靭帯と踵腓靭帯です。この外側の2つの靭帯は足関節のうち返しを制動しているため、特に損傷を受けやすくなっています。
競技では、バスケットボールやバレーボール、サッカーなど、ジャンプや切り返し動作が多い種目に見られます。
靭帯の主な修復過程は、炎症期(受傷早期)→増殖期(受傷3日目から8週間程度)→リモデリング期(受傷4週〜半年程度)の順に進んでいきます。
2.足関節捻挫の症状と注意点
足関節捻挫を生じると、足首の外側(外くるぶしの前や下方)に腫れ内出血、痛みが出ます。捻挫の程度によっては足を着いて歩くことが難しい場合もあります。
捻挫をしても歩くことや走ることが可能な場合、自然回復を待って放置してしまうことが多々あると思います。そして「たかが、足首の捻挫」という認識により、正しい診断と治療が行われないと、靭帯修復が進まず後々痛みが残ることがあります。また、靭帯が伸び切った状態でスポーツなどを行うと、足首の不安定性が改善していないため再受傷する可能性もあります。
さらに足首をかばった状態で動作をする事により他の関節に負担がかかり、膝や股関節の怪我につながりやすくなります。
特にスポーツ復帰を目指す場合、正しい診断と受傷初期の処置、早期リハビリが重要になってきます。
3.足関節捻挫の診断
捻挫の重症度によって固定期間が変わってくるため、重症度の診断は今後の日常生活やスポーツ復帰の大切な指標となります。また足関節捻挫の診断は問診や視診、触診、各種検査を通じて行われます。
【問診】
どのような姿勢で損傷したのかを聞くことは、捻挫の重症度や損傷している部位を推測する上で、最も重要な情報です。例えば「どんな状況で受傷したか?」、「足首はどの方向に向いていたか?」、「スポーツであればどんなプレーだったのか?」、「他プレイヤーとの身体接触は?」、「着地で人の足や物を踏んだか?」といった具合に問診を行います。出来るだけ詳しく聴取することで再受傷の予防にもつながります。苦手な動作を改善するための治療・リハビリを行う上で非常に重要になります。
【視診】
診察室への入室時から始まります。自力歩行が可能な場合は、歩き方も観察し、荷重をかけるときや足首を動かしたときに痛みがでるのかを推測することが出来ます。また、腫れの部位や程度、皮下出血の有無、自力でどのくらい足首が動くのかを観察します。
【触診】
自覚症状や腫れのある部位だけでなく、足首の周囲の組織も押して痛み(圧痛)があるかを確認し、どこの靭帯・骨が損傷しているかを推測する情報の1つになります。
【前方引きテスト・内返しテスト】
ある部位に負荷をかけて、正常に動くか痛みの有無を確認する方法です。足関節捻挫では靭帯に負荷をかけて、どこの靭帯が損傷しているかを明確に診断するために欠かせない検査になります。例えば足首を前方や内側に動かし力を加えると、損傷した靭帯が伸長され痛みが生じます。痛みが生じた部位を明確にすることで、どこの靭帯が損傷したのかを判断するための情報の1つになります。
【超音波検査】
初回は損傷した靭帯の重症度や足首の不安定性、骨折の有無を評価するために使用します。また損傷靭帯の修復状況を判断する際にも使用していきます。
【レントゲン検査】
足関節外果骨折、第5中足骨骨折、距骨骨軟骨損傷などの有無を確認します。
4.足関節捻挫の重症度と治療のながれ
靭帯損傷(捻挫)は重症度毎に以下の3つに分類されます。
重症度による症状の違いと治療期間、治療の流れはおよそ以下の通りです。
Ⅰ度損傷(軽症):靭帯繊維の軽微な損傷
〜軽く腫れて弱い痛みがある状態。内出血は少なく足を着いて歩ける事が多い。
- 治療期間:2〜3週間
- 関節の不安定性:ほぼ無し
- 固定方法:固定なし、もしくは1〜2週間サポーター固定。
- 治療のながれ → 日常生活は痛みに応じて特に制限は無く、痛みがなくなり次第運動を再開します。
Ⅱ度損傷(中等症):靭帯の部分断裂
〜Ⅰ度よりも強い内出血と腫れ、痛みはあるが足を着いて歩ける、もしくは着けない。
- 治療期間:4〜8週間
- 関節の不安定性:軽〜中等度の緩み
- 固定方法:サポーターもしくは短期間のシーネ固定
治療のながれ
痛みのため足を着いて歩けない場合は数日間のシーネ固定と松葉杖による免荷重を行います。
体重は無理にかけず、痛みに応じて少しずつかけるようにします。
固定は痛みや腫れが良くなり次第、サポーターに変更し6週から8週程度継続します。
損傷した靭帯と関節の安定性はエコーを使って評価していきます。また可能な場合は早期からリハビリを行い、靭帯の修復促進と足関節の機能低下を予防していきます。
痛みが無くなり関節の安定性が得られたら、治療は終了です。
この時点で日常生活に支障はありませんが、スポーツを再開する際は片足爪先立ちやジョギングが無理なく出来る様になり次第、徐々に強度を上げていく事をお勧めします。
Ⅲ度損傷(重症):靭帯の完全断裂
〜Ⅱ度の症状がさらに悪化、痛みと腫れが強く、足を着いて歩けない。
- 治療期間:8週〜16週程度
- 関節の不安定性:強い
- 固定方法:シーネもしくはギプス固定とリハビリテーションもしくは靭帯再建術
治療のながれ
痛みが軽減するまで10日前後のシーネもしくはギブス固定と松葉杖を使用した免荷重を行います。痛みが減ってきたら徐々に体重をかけ始め、軽い足首の運動を開始します。この時点で固定をサポーターに変更します。足関節の不安定性はエコーと診察で判断しますが、受傷から12週の時点でも靭帯強度は損傷前の6割程度のため、可能な範囲でサポーターの着用を継続します。また継続的なリハビリテーションの必要性が高く、適宜M R Iによる靭帯・骨軟骨損傷や関節炎の評価を行います。
不安定性が強く、サポーターやテーピングでの治療に限界がある場合、稀に靭帯再建術を要する事があります。術後は4週程度のギプス固定を経て、8週以降の運動再開となります。
*これらの治療の流れはおよその目安であり、患部の状態に応じて適宜変更を加えていきます。
5.足関節捻挫の応急処置
受傷直後に行うのはRICE処置で、炎症している部位を治すための方法です。一般的に受傷直後から受傷72時間程度(3日間)まで行います。
①安静(Rest)
目的 | 患部を保護し、痛みと腫れの助長を防ぎます。 |
方法 | サポーターもしくはシーネ固定 |
②冷却(Ice)
目的 | 損傷した靭帯などの組織の温度を低下させることで血管が収縮し、過剰な炎症を抑制、痛みを和らげます。 |
方法 | 氷水で5分冷却した後、20分間休憩し再度5分間冷却します。これを1セットとし、2時間おきに一日2〜3回、3日間行ってください。 |
③圧迫(Compression)
目的 | 内出血や腫れを軽減させることです。炎症反応による血管透過性の亢進が原因で足首の周りが浮腫んできます。そのため、圧迫することで過剰な腫れを予防していきます。 |
方法 | 弾性包帯やテーピングパッドなどで患部を軽く圧迫します。 |
④挙上(Elevation)
目的と方法 | 患部を心臓より高い位置に置く事で、足首の内出血と腫れを軽減させます。 |
6.足関節捻挫のリハビリ
リハビリは足関節機能の回復状況に応じて、以下の4つのステージに分けて行います。またリハビリ内容は可動域訓練とバランス訓練が中心となります。
- 急性期
- 亜急性期
- 回復期
- 強化期
1)急性期(受傷初日~3週間程)
炎症抑制と早期可動域訓練の開始
急性期では過剰な炎症が腫れを助長することで可動域訓練を阻害するため、R I C E処置やハイボルテージ電気刺激治療器によって腫れを鎮静化しつつ、早めの可動域訓練を開始することが重要です(ただし動作による痛みが出る場合は控える)。また患部以外の機能低下を予防するためのエクササイズを開始します。
◯ ハイボルテージ電気刺激治療器
働き | 炎症による血管透過性亢進を抑制する |
効果 | 急性期の腫れや痛みを抑え、組織の修復を促す |
リハビリ内容 | ①足関節の浅い底背屈運動(前後にだけ動かす) ③体幹・股関節・膝周囲筋力訓練 ④セルフケア指導 |
2)亜急性期(受傷3日〜4週程度)
正常な関節運動と歩行の獲得
この時期はまだ患部の腫脹や痛みが残っているため、慎重に治療を進めていきます。
患部の保護を行いつつ、足関節可動域獲得のためのストレッチと、痛みに応じた歩行訓練を開始します。
リハビリ内容 | ①痛みのない範囲での歩行訓練 ②足関節ストレッチとエクササイズ (外返し運動・ギャザリング・ストレッチボードエクササイズなど) ③バランストレーニング(片足立ち・踵上げ) |
3)回復期(受傷約4週以降)
十分な可動域と筋力・バランスの獲得
この時期患部の腫れと痛みは大幅に改善してくるため、リハビリ強度を徐々に上げていきます。具体的には、可動域訓練からバランストレーニングへとメニューを移行していき、複数のトレーンングを組み合わせることで下肢機能の左右差を無くしていきます。
片足での爪先立ちが無理なくできるようになればジョギングを許可します。
リハビリ内容 | ①バランストレーニング(バランスボード・シューズ・ディスクなど) ②筋力強化(ジャンプ・スクワット・ジョグなど) |
4)強化期(スポーツ復帰)
安定したスポーツ動作の獲得
この時期はジョギングや垂直ジャンプなどの基本的な動作が可能であり、さらに患部の違和感や痛み、炎症の増悪などの異常がない事を確認後、スポーツに特化した動きをトレーニングしていきます。
特に受傷の原因となった危険動作を重点的に修正補強していきます。
リハビリ内容 | ①段階的に高い負荷の筋力トレーニング ②スポーツ動作に特化した姿勢保持・バランストレーニング |
7.足関節捻挫に伴う合併症
足関節捻挫には見逃してはいけない骨折や腱損傷があり、これらは足関節の痛みを長引かせる原因となります。レントゲンや超音波検査を用いて早期発見し対処していくことが大切です。
以下に5つの大まかな合併症を、頻度の多い順に並べました。
- 足関節外果骨折
- 第5中足骨骨折
- 前脛腓靭帯損傷
- 腓骨筋腱損傷
- 距骨骨軟骨損傷
足関節外果骨折
10歳以下のお子さんでは骨の強度が不十分なため、靭帯損傷と共に靭帯付着部(外くるぶしの先端)の剥離骨折を起こす事がよくあります。
一見すると靭帯損傷と同じ様な症状ですが、正しい対応が行われない場合、骨癒合が得られず痛みが長引く原因となります。大人でも外くるぶしの骨折を起こしている場合があるので、腫れが強い場合、レントゲン検査で骨折の有無を調べる必要があります
第5中足骨骨折
足首の捻挫の際に、足首とは別に足の甲の外側に痛みが強く出ることがあります。この部位を押して鋭い痛みがある場合、この骨折を疑います。足関節だけではなく足の甲も含めた広い範囲で骨折が隠れていないかチェックが必要です。
前脛腓靭帯損傷
体重をかけた際に足首の前側に強い痛みが生じます。足首を構成する脛骨と腓骨を繋ぐこの靭帯が損傷すると、足関節が不安定となり痛みが長引く原因となります。
腓骨筋腱損傷
外くるぶしの後方を縦に走行し、足首を背屈、外がえしさせる腱です。足首を内反捻挫した際、この腱にくるぶしの下で強い緊張が加わるため、炎症を起こします。通常の足関節捻挫に準じた治療により改善していきます。
距骨骨軟骨損傷
距骨は足関節の中で体重を受ける側の骨の1つです。うち返し捻挫をした際、この距骨の内側と脛骨遠位の骨がぶつかることで生じます。
体重をかけた時に痛みが出やすく、放置すると変形性足関節症の原因となることがあります。一定期間の体重負荷の禁止が必要となり、時に装具療法を行うこともあります。
参考文献
足関節捻挫についての記事は、以下の参考にしております。
- 軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション
- 標準整形外科学
- 足関節捻挫症候群
- 運動器スポーツ外傷・障害の保存療法 下肢
- 日本整形外科