アキレス腱障害について

アキレス腱障害

~アキレス腱が痛い!それはアキレス腱障害かも!?~

アキレス腱はスポーツをしている人が痛める場所の1つです。特にランナーの方には多い慢性的な怪我で、酷くなると日常生活にも支障をきたすようになります。

今回はそんなアキレス腱障害についてご紹介します。

ここがポイント!アキレス腱障害のまとめ

  • アキレス腱周囲の痛みはアキレス腱障害として捉える
  • アキレス腱障害は慢性的な怪我である
  • スポーツ時のみならず日常生活にも影響を及ぼす
  • 診断には侵襲の少ないエコーが有効
  • アキレス腱障害の治療には筋力トレーニングが重要

目次

  1. アキレス腱障害とは
  2. アキレス腱障害の症状
  3. アキレス腱障害の診断
  4. アキレス腱障害の治療
  5. リハビリの流れ

1.アキレス腱障害とは

そもそもアキレス腱とは人体で最も長い腱で、下腿三頭筋に続く腱組織で踵骨まで付着をしています。
真っ直ぐな組織に見えますが、実はねじれ構造を呈していて腓腹筋の停止腱がそれぞれアキレス腱の深層外側、浅層外側に位置しています。
このねじれ構造の臨床的な意味は分かっていません。

しかしアキレス腱に疼痛がある症例では、アキレス腱のどの部位に疼痛があるかによって、どの筋が疼痛の原因になっているかある程度予測ができるのです。

アキレス腱障害とはアキレス腱付着部から2~6cm頭側のアキレス腱実質部に痛みを認めるオーバーユース障害である、と言われています。
このアキレス腱付着部から近位2~6cmというのは血流の少ない部位が存在すると言われているため、アキレス腱の深層前方ある脂肪体が栄養血管を供給する役割を持っています。
さらに脂肪体はアキレス腱にかかる力学的負荷を減らすクッションとしての役目も担っており、多様な働きをしてくれているのです。

さて『アキレス腱障害』という言葉を最初から用いて説明してきましたが『アキレス腱炎』や『アキレス腱症』という言葉を聞いたことがある人もいるかと思います。
アキレス腱炎やアキレス腱症ではなく、なぜアキレス腱障害なのかについてもご説明していきたいと思います。

元々、腱炎は1990年以前の慢性腱痛の呼称で、病態は主に炎症と考えられていました。
それが1990年以降、腱痛により手術に至った症例において患部に炎症細胞が認められなかったことから、慢性腱痛の病態は炎症とは異なるものだという認識が広がりました。
結果、組織変性の意味合いを持つ腱症と呼ばれるように変化しました。

しかし2010年を過ぎた頃から炎症が初期の腱痛に認められたことや終末期まで移行する症例は大多数ではないということが分かりました。 上記を踏まえて『腱炎』と『腱症』ではなく、包括的な意味合いのある『腱障害』が適切であると考えられ、現在では腱障害という言葉が使われています。

2.アキレス腱障害の症状

動作に伴うアキレス腱の痛みが主な症状となります。

症状が軽度な時はスポーツ動作、特に走ったりジャンプしたりする動作で痛みを伴うことが多いです。
重度になってくると日常生活動作でも痛みを伴うようになります。

例えば歩行時痛や動作開始時のこわばり、階段降段時のアキレス腱の痛みなどが代表例です。
人の場合は歩くだけでも体重の何倍もの負荷がかかってくるので、そのような負荷が関係しているかもしれません。

腱という組織は変性してしまうと修復がなかなか難しいと言われている場所です。
そのため大切になるのが、変性した場所の周りの腱組織を強くするということになります。

残存機能を鍛えることで、日常生活のみならずスポーツ動作の負荷にも負けない腱組織を作っていくということが、腱障害の改善には非常に重要なポイントになるのです。

3.アキレス腱障害の診断

アキレス腱障害の診断は腱の実質の問題なのか、アキレス腱周囲の問題なのか鑑別することが非常に重要になります。

発症初期は動作時痛が主であるが、病状が進行すると痛みが継続的に発生し日常生活にも支障をきたします。
病態の把握のために画像検査が有用です。

単純X線では腱の肥厚や腱内の石灰化や骨化が描出され、MRIではアキレス腱の肥厚や腱内の浮腫などが描出されます。
近年では簡便かつ低侵襲であるためエコー評価が非常に有用とされています。エコーでは腱の肥厚、Fibrillar Patternの乱れや消失などが所見としてみられ、カラードプラでは周囲組織から腱内への血管侵入が認められるようです。
そのような所見がみられれば、アキレス腱障害と考えられます。

アキレス腱周囲の問題の場合、踵骨後部滑液包炎の可能性があります。
踵骨後部滑液包炎の場合は、同部位を内外側から摘むTwo-finger squeeze testが陽性となります。
また、踵骨後上隆起突出部の発赤と腫脹であるPump bumpも観察されるようになります。

4.アキレス腱障害の治療

アキレス腱障害の治療として行うものは多数あります。

  • リハビリ
  • 内服療法
  • 体外衝撃波
  • PRP療法
  • 足底板療法(インソール)

など状態に応じて様々な治療を行っています。

痛みが強い時期には痛みを軽減させるために、内服や体外衝撃波などの治療を進めていきます。
とはいえアキレス腱障害自体は慢性的な怪我になるので、リハビリを行うことは非常に大切です。

5.リハビリの流れ

リハビリでは腱の特性を踏まえて段階的に進めていく必要があります。

腱は筋肉と比較して治癒速度が遅いことがわかっており、速度依存性に負荷が増すと言われています。
そのため、このような特性を踏まえたリハビリが大切です。

等尺性トレーニング期

日常生活動作でも痛みがある場合は、特に腱に必要以上の負荷がかからないように運動を制限する必要があります。特に腱は走る、跳ぶなどの跳ねる動きをすると強い負荷がかかるので注意が必要です。
痛みが強い場合には物理療法や薬物療法も併用して行います。

腱は伸長ストレスには非常に強い構造をしているものの、圧迫や応力遮蔽に弱いという特徴があります。そのため腱障害のリハビリにはこれらを考慮する必要があります。

腱の圧迫には骨隆起が大きく関係すると言われています。
関節が動いた時には筋肉はもちろん腱も一緒に動くため、その時に腱が骨に押し付けられるような形となり、徐々に損傷を引き起こしていくのです。

応力遮蔽とは腱のある部分がその周囲よりも負荷がかかっていない状態をさします。
生理的範囲の力学的負荷は腱の強度を保つためには非常に重要です。
負荷が全くかからなくなってしまうと腱が弱化してしまうことに繋がります。

さて実際に行うこの時期のリハビリですが、まずは等尺性収縮エクササイズです。

疼痛緩和のためには最大筋力の70%相当の重量での等尺性収縮を45秒間×5セット行い、インターバルは2分に設定して行います。
エクササイズを実施して24時間後には腱の痛みが強くなっていないか確認することが重要です。

疼痛が増悪していないか、減弱していれば問題ありませんが、もし増悪していた場合はトレーニングの負荷を調節する必要があります。

高重量トレーニング期

腱の強化をするためにはエクササイズの重量を高めることが重要で、等尺性トレーニング期で述べたように最大筋力の70%以上が基準となります。
等尺性収縮と違って等張性収縮は筋力の強化にも有効で、1日あたり6~8回×4セットを目安に行なっていきます。

腱へのストレスは運動速度に依存するため、トレーニングの速度はゆっくり行うのがポイントです。 痛みが無ければ徐々に速度を上げるようにしていくことで、アキレス腱に対する負荷を高めていき強度を高めることができるようになります。

プライオメトリックトレーニング期

プライメトリックトレーニングとは筋力とコンディショニングを向上させて、大きな力をすばやく生み出す能力を高めるエクササイズのことを指します。
このエクササイズは今までのトレーニングよりも速度を上げてトレーニングをしていきます。
筋腱複合体を伸長して運動の切り返しを早く行うことで、腱に対してさらなる負荷をかけることができるため腱を強化できるのです。

ただしプライメトリックトレーニングは、高重量トレーニング期までよりも腱にかかる負荷が著しく高まります。
もちろん腱に対する負荷が増大することで、腱のコラーゲン線維(腱の構成要素)の合成を促すことができる結果、強度が高まるのですがトレーニング頻度に注意が必要です。

エクササイズ後、約18~36時間の間はコラーゲンの分解が上回っており、その後は72時間くらいまでコラーゲンの合成が増加するタイミングとなります。

そのため、休みをまったく取らずに腱に対して負荷をかけていくと、コラーゲンの分解が高まり腱に対しての過負荷となりすぎる可能性があるため、トレーニング後の痛みの変化は重要な指標の1つです。

  • 段階的にトレーニングの強度を高めていく
  • 疼痛の状況をみながらトレーニングを進めていく

という2点を考慮してリハビリを行なっていくことが何より大切です。

参考文献

  • 軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション
  • 実践足の保存療法 手術の前にすべきこと
  • The Efficacy of Extracorporeal Shock Wave Therapy as a Monotherapy for Achilles Tendinopathy: A Systematic Review and Meta-Analysis
  • Comparability of the Effectiveness of Different Types of Exercise in the Treatment of Achilles Tendinopathy: A Systematic Review

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