胸郭出口症候群について

胸郭出口症候群は神経や血管に影響を与えて手先の痺れや脱力感などの症状を引き起こします。
特に腕を持ち上げた姿勢で何かを作業していたり、吊り革を持つなどの腕を持ち上げた姿勢を保持したりすることで症状が自覚されることが多いです。

姿勢もこの疾患の一要因であるため、姿勢改善が非常に重要となります。

もちろん姿勢以外にも骨の影響もあるため、何が原因となっているかを適切に見極める必要があります。何か気になる症状があれば医療機関をきちんと受診しましょう。

  • 胸郭出口症候群の原因は骨のこともあるため見極めが重要
  • 主な絞扼部位は3ヶ所存在している
  • 確定診断は難しいためその他の疾患と鑑別が重要
  • 症状は手先の痺れや脱力感など様々ある
  • 姿勢による影響も大きいため姿勢改善が必要

目次

  1. 胸郭出口症候群とは
  2. 胸郭の構造
  3. 胸郭出口症候群の好発部位
  4. 胸郭出口症候群の症状
  5. 胸郭出口症候群の診断
  6. リハビリの流れ

1.胸郭出口症候群とは

胸郭出口症候群とは、胸郭の出口にて腕神経叢(首から出て腕に向かう神経)や鎖骨下動脈・静脈が圧迫され、上肢に痛みや痺れといった症状が生じる疾患の総称を指します。
発生率は1000人中3人〜80人程度で、20歳代〜50歳代の女性に多いです。

胸郭出口症候群は神経が障害される場合と血管が障害される場合とがあり、そのほとんどは神経性だと言われています。
神経性がおおよそ95%、血管性が5%程度で、軟部組織による影響が70%、骨による影響が30%程度との報告です。

神経は脊髄から始まり四肢末端に向かって走行しており、脊髄側を中枢神経、手足に向かう神経を末梢神経と分類します。
この胸郭出口症候群は頚部のところから分岐する末梢神経の障害です。

中枢神経と異なり、末梢神経は時間経過とともに回復する神経のため、神経損傷の程度によりますが症状の改善が見込めます。
軽度な損傷であれば1週間〜2ヶ月程度、中程度の損傷で2〜4ヶ月、重度のもので1年程度と言われていて、ある程度の期間が必要です。

しかし、全ての末梢神経の損傷が回復するわけではなく、完全に神経が断裂したものに関しては回復が難しいとも言われています。
幸い、胸郭出口症候群では神経が断裂するということは考えにくいため、症状の回復が見込まれています。

2.胸郭の構造

胸郭とは、12個の胸椎と12対の肋骨と胸骨で構成されています。
胸郭の中には肺や心臓などの臓器が存在していて、これらを守る役割と、呼吸をする際に肋骨を動かす、そして運動する際に体幹を動かすという役割があり全て大変重要です。

肋骨の1番目である第一肋骨のすぐ上には鎖骨があり、鎖骨のすぐ上後方(斜角筋隙)を腕神経叢が通過します。

腕神経叢は頸椎5番目から胸椎1番目の間から出てくる神経を総称した呼び方で、上肢をコントロールする非常に重要な神経です。

斜角筋隙を通過後は鎖骨の下を通り第一肋骨との間を通過して、さらに小胸筋という胸の筋肉を通過して上肢に向かっていきます。

このように腕神経叢は複雑なルートを通っているため、様々な場所で絞扼を受けてしまうのです。

呼吸による肋骨の動きは腕神経叢の障害にも影響します。
特に腕神経叢の最初の通過部である斜角筋隙を構成する斜角筋、その下方の小胸筋下間隙を構成する小胸筋は、呼吸補助筋として働きます。
そのため、なんらかの影響で呼吸が乱れたり、肋骨の動きが制限されていたりした場合、斜角筋や小胸筋に過度な負荷がかかってしまうのです。

肋骨の動きは、第1〜第6肋骨(上位肋骨)はポンプハンドルモーションといって前後に大きく広がるように動きます。
第7〜12肋骨(下位肋骨)はバケツハンドルモーションといって左右に大きく広がるという特徴があります。

現代人はリラックスしている時に起こる腹式呼吸が苦手なケースが多いです。
すると下位肋骨の動きがあまり出ずに、上位肋骨で代償する呼吸法となってしまいます。

3.胸郭出口症候群の好発部位

腕神経叢が絞扼されやすい場所は主に3ヶ所あると言われています。

  1. 斜角筋隙
  2. 肋鎖間隙
  3. 小胸筋下間隙

それぞれ解説をしていきます。

①斜角筋隙

斜角筋隙は前斜角筋と中斜角筋と第1肋骨によって囲まれている三角形のスペースになります。
これは斜角筋が過度に緊張することによって、斜角筋隙を通過する腕神経叢に対して圧迫ストレスがかかります。
神経は特に血流不足に弱いため、圧迫ストレスを受けて神経の血流が不足し、神経障害に至ってしまうのです。

また、頚肋という本来は胸椎にのみ肋骨が付着しているはずですが、頚椎に肋骨の名残が存在することがあります。
頚肋は斜角筋隙の間に存在するため、この骨が斜角筋隙に圧迫を与えてしまう場合は、それも胸郭出口症候群の原因となるのです。

肋鎖間隙

肋鎖間隙は肋骨と鎖骨の間のスペースのことで、斜角筋隙を通過した後に腕神経叢が通る場所です。

肋鎖間隙を通過する前に肩甲上神経、肩甲背神経、長胸神経が分岐しています。
これらは肩と肩甲骨の筋肉に分岐して筋肉を支配しています。
この肋鎖間隙の間には鎖骨下筋があり、この筋肉が緊張することによって腕神経叢が圧迫を受けます。

さらに、なで肩の姿勢になると鎖骨が肋骨側に引き下げられるようになるため、このような姿勢も腕神経叢にストレスを与えてしまい胸郭出口症候群に繋がってしまうのです。

小胸筋下間隙

肋鎖間隙を通過した腕神経叢は小胸筋の下を通過していきます。
小胸筋の下を腕神経叢が通過するため、上肢を挙上位にする(腕を上げる)と腕神経叢にストレスがかかります。

また、円背姿勢(いわゆる猫背)になってしまうと、この筋肉が緊張した状態となるため、胸郭出口症候群の原因となるのです。

以上のように、腕神経叢を絞扼しやすい場所は主に3ヶ所あります。
ただしどれか1ヶ所が原因となる訳ではなく、複数の箇所が絞扼されることで胸郭出口症候群が起こります。

リハビリでは原因となる部位を見極めて、絞扼の改善を目指していく必要があります。

4.胸郭出口症候群の症状

胸郭出口症候群では上肢に向かう神経や血管が障害を受けるため、基本的には上肢に障害が起こります。

胸郭出口症候群の主な症状

  • 手指の痺れ
  • 上肢の痛み
  • 不快感
  • 蒼白
  • 筋力低下

などが挙げられます。

また上肢を使う動作、特に上肢を挙上位で何か作業する際には腕神経叢にストレスがかかり、上肢の痺れや痛みが増悪することがあります。ただし一時的に増悪しても安静により軽快します。

胸郭出口症候群は絞扼部位によって症状が変わります。
斜角筋隙を通過して肋鎖間隙で絞扼された場合、肩甲上神経と肩甲背神経と長胸神経は絞扼されないため、これらが支配している筋肉は筋力低下が起こりません。

特に長胸神経は前鋸筋を支配しているため、肩甲骨外転の筋力を評価して、筋力低下があるかないかによって、斜角筋隙の絞扼なのか、肋鎖間隙以下の絞扼なのか判断がしやすくなります。

5.胸郭出口症候群の診断

胸郭出口症候群の診断は確立していません。そのため他の疾患との鑑別が重要になります。
例えば、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、頸椎椎間関節障害、肘部管症候群、手根管症候群などとの鑑別が大切です。

レントゲンやMRIを用いて、特に頸椎における問題を鑑別した上で、胸郭出口症候群の評価のための各種整形外科テストも使用します。

ライトテスト

患側肩関節を90度外転、外旋位、肘関節90度屈曲位とした状態で、症状増悪の有無と橈骨動脈の拍動減弱の有無を評価する

ルーステスト

座位で両肩関節を90度外転、外旋位、肘関節90度屈曲位として、3分間手指の屈伸運動を行う。
早期から上肢の疲労感や重さの自覚、手指の痺れの増悪を評価する

エデンテスト

座位で両肩関節を他動的に伸展し、橈骨動脈の拍動減弱の有無を評価する

このようなテストも併せて行い、他の疾患の可能性の除外、胸郭出口症候群であるか診断をしていく必要があるのです。

6.リハビリの流れ

リハビリでは、腕神経叢の絞扼部位の解放が重要なポイントになります。
頚肋などの骨の問題を解決することはできないので、軟部組織に対してストレッチなどを行なっていきます。

特に胸郭出口症候群には姿勢が大きく関与しているため、姿勢の改善は必須です。
座位姿勢において、フォワードヘッド(頭部が前方に偏位した姿勢)になると、斜角筋や小胸筋の緊張が増加してしまいます。

また、鎖骨も下方に引き下げられた状態となるため、腕神経叢の絞扼されやすい3ヶ所の場所全てにおいてストレスが増大します。
そのためフォワードヘッド姿勢の改善が、1番と言っても良いほど重要なポイントです。

フォワードヘッドを作り出す原因は

  • 肩甲骨の外転
  • 胸椎の後弯
  • 骨盤の後傾

などがあります。

つまり、これらを改善するためのストレッチが、胸郭出口症候群の症状を改善するための1つの手段となるのです。

それ以外には生活環境を改善することも重要になります。

例えば、デスクワークを行う際にパソコンの位置が悪いために、頭部が前方に出てしまう場合はパソコンの位置を変える。
椅子への座り方が悪いために胸椎後弯が強くなり、頭部が前方に偏位してしまう場合は座り方を改善する必要があります。

姿勢は無意識に今までの生活によって作り出されてきたものであるため、まずは自分自身の姿勢に気づき、意識的に調整をしていくことが大切です。
ちょっとの意識で姿勢の修正を繰り返すことで、良い姿勢が習慣化して腕神経叢への負担を軽減した状態を作ることができます。

このようにリハビリでは姿勢の改善と、普段の生活環境の改善を主に行なっていきます。
胸郭出口症候群の改善は大変ですが、根気良くリハビリを継続していくようにしましょう。

参考文献

  • 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学
  • Thoracic outlet syndrome: a narrative review

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