仙腸関節障害

仙腸関節は動かない関節であると言われてきましたが、僅かではあるものの可動性を持つ関節です。
周囲を硬い靭帯で取り囲まれているものの、関節の構造から見ると非常に不安定になりやすい特徴があります。

そのため関節の適合性を評価、改善することが仙腸関節障害改善のためには重要なポイントであると考えられます。

  • 仙腸関節は僅かな可動域を持つ関節
  • 画像診断はあまり有効とは言えない
  • 仙腸関節障害はいくつかのテストを組み合わせて診断をする必要がある
  • ブロック注射が著効するケースが多い
  • 仙腸関節の適合性を評価、改善することがリハビリにおいては重要

目次

  1. 仙腸関節障害とは
  2. 仙腸関節障害の診断
  3. 仙腸関節障害の治療
  4. リハビリの流れ

1.仙腸関節障害とは

仙腸関節とは仙骨と腸骨の関節面で構成されている滑膜関節です。

前方領域は関節腔領域で、後方領域は靭帯領域と言われていて靭帯が占める割合が非常に高くなっています。
一般的にはこの前方領域と後方領域を合わせて仙腸関節と言います。

関節面はほぼ平坦になっていますが、仙骨側がわずかに凹、腸骨側がわずかに凸になっていて、緩やかな台形構造です。
構造的には非常に不安定な形となっており、ここに下肢からの床半力による力と重力の影響による負荷がかかるという特徴があります。

構造的には不安定であるものの、運動は前・後仙腸靱帯、長後仙腸靱帯、仙結節靭帯、仙棘靭帯、腸腰靭帯によって制限されており、1mm以下のわずかな関節運動のみ可能となっています。
仙腸関節の動きはわずかな動きであるものの非常に重要です。

我々は二足歩行を行いますが、一方の下肢が前方に動けば、対側は後方に動くという左右交互の動きをします。
この左右交互の動作時にわずかに仙腸関節が動くことによって、仙腸関節部に応力が集中して構造的な破綻を防ぐことに役立っています。
なので、仙腸関節の適合性や可動性は重要になるのです。

仙腸関節障害は世界中で慢性腰痛の一般的な病因と言われていて、有病率は10~33%です。
アスリートにおける仙腸関節由来の疼痛頻度は25.5%という報告もあり、腰痛を訴える患者のおおよそ4人に1人は仙腸関節由来と考えられます。
症状は多様で、疼痛部位として最も多いのは腰部で38%、次いで骨盤または臀部、股関節または鼠径部、大腿部、まれに下腿出現することがあります。

このようなことが起こる要因として、仙腸関節には自由終末神経線維や機械受容器が多数観察されており、仙腸関節の皮膚分節レベルが高いことが言われており、その結果疼痛の臨床所見を不明確にすることになるのです。

その他

  • 歩行時の立脚側で荷重時に痛みが増悪
  • 椅子座位は困難であるが正座は可能
  • 座位時の疼痛領域は上後腸骨棘や坐骨結節であることが多い

などといった自覚的症状が挙げられます。

このような仙腸関節障害は、仙腸関節への軸圧と急激な回旋ストレスが原因で起こるということが言われています。
その他に臀部への直接的な外力も影響していることが報告されています。

また脚長差があると仙腸関節の負荷分散が不均一となり、仙腸関節障害の原因の1つになると考えられています。

脚長差が1cmよりも3cmの方が仙腸関節にかかる負荷も大きくなることが分かっており、脚長差にも注意が必要です。

2.仙腸関節障害の診断

仙腸関節障害においても他の腰痛と同様にRed flagsに注意をする必要があります。
Red flagsの中でも強直性脊椎炎やSAPHO症候群が仙腸関節障害のようの症状を呈することがあるため鑑別することが大切です。

仙腸関節障害は画像所見に乏しいと言われており、単純X線やCT、MRIなどの画像所見から検出することは不可能だと言われています。
そのため、症状や特徴的な所見から診断をしていく必要があります。

診断に有用なツールの1つとして、仙腸関節スコアと言われる自覚的所見と他覚的所見を組み合わせて点数化した指標があります。

仙腸関節スコア
項目 スコア
1.One finger testでPSISを指す 3点
2.鼠径部痛 2点
3.椅子座位時の疼痛 1点
4.Newton test変法 1点
5.PSISの圧痛 1点
6.仙結節靭帯の圧痛 1点
合計 9点

One finger testは痛みの場所を聞いた時に一点を指す場合を指します(PSIS:上後腸骨棘)。
一点でさせる場合は3点となり、鼠径部に痛みがある、座位で痛みがあるかなどで合計点を算出します。
合計点数が5点以上で、感度77.4%、特異度76.4%となると報告されております。
その他の疼痛誘発テストも併せて行い、複数陽性であれば仙腸関節障害を疑います。

仙腸関節障害を疑った場合の確定診断には仙腸関節ブロックを行います。
仙腸関節後方靭帯のブロックで70%以上の疼痛改善が得られた場合は仙腸関節障害と診断します。

70%以上の疼痛が改善しなかった場合は、次に仙腸関節腔内のブロックを行います。
これで70%以上の疼痛改善が得られた場合は仙腸関節と診断し、改善しない場合は仙腸関節障害を否定します。

疼痛改善の判断はブロック注射をする前の疼痛を10とし、ブロック注射後に疼痛が3以下であれば70%以上疼痛が改善したと判断をします。

※ブロック注射とは…神経に麻酔を注射することで除痛を図るための治療方法

3.仙腸関節障害の治療

仙腸関節障害に対する治療としては、診断のために用いたブロック注射を使うことができます。

ブロック注射と保存療法を併用して行い、ブロック注射後4週間後に50~70%の除痛効果が得られていればそのまま保存療法を進めます。
症状の軽減が乏しい場合は再度ブロック注射を行い、疼痛の軽減を図ります。

しかし、50~70%の除痛効果が3ヶ月未満の場合は手術療法を検討します。
手術療法を行う場合は低侵襲仙腸関節固定術が、その他の治療法として高周波熱凝固法があります。

手術療法は少なくとも6ヶ月の保存療法によって症状が改善しない場合、患者が希望する際は手術療法が適応となります。
手術ではインプラントを用いて仙腸関節を側方、後方、後方斜位アプローチで固定していきます。

側方アプローチは比較的成績が良いと言われており、その理由としては外側から内側に向かってインプラントを挿入することで、開大した仙腸関節腔を体幹の中心軸に引き寄せることができるからです。

4.リハビリの流れ

仙腸関節障害に対するリハビリでは仙腸関節の適合性を阻害する因子の改善と、適合性を高めるようなアプローチを行っていき、左右対称に近い骨盤を目指していきます。
左右対称かどうかを判断するためには、触診で骨盤アライメントを正確に評価することが重要です。

前額面状の評価では、仙腸関節は両側の上後腸骨棘を結んだ線の垂線状に仙骨があるかを触診で評価をします。

一側の大殿筋が椅子座位などの長時間の圧迫により滑走不全を起こすと、尾骨を同側に引っ張ってしまうため仙骨が前額面状で傾斜しマルアライメントを引き起こします。
また股関節外転筋の滑走不全や拘縮が起こると、寛骨が下方回旋方向に引っ張られてしまい、仙腸関節上部が前額面状離開するストレスがかかります。

水平面状では、寛骨が内旋方向に引っ張られてしまうことで、仙腸関節後部に離開ストレスがかかると考えられます。
このように仙腸関節に過度なストレスを与える要因を評価し、取り除いていくことが重要になります。

加えて仙腸関節を安定させる筋群のトレーニングも重要になるため、それも同時に行っていきます。

まずは評価です。

ActiveSLRとProne Hip extensionで仙腸関節を安定させるために必要な筋群の機能を確認します。

ActiveSLRは0点から3点の4段階の評価で、脚を持ち上げる際の重さを指標にしていきます。

脚を持ち上げる際に重さがあった場合、骨盤を操作することで仙腸関節を安定させるように補助をして脚の挙上感を評価します。

もし挙上感が改善するようであれば、その筋肉をトレーニングしていきます。

Prone Hip extensionでは多裂筋と大殿筋の機能評価を行うことができます。

仙腸関節を安定化させる筋群

  • 腹横筋
  • 内腹斜筋
  • 多裂筋
  • 大殿筋

このように評価を用いて仙腸関節を安定化させる筋肉の中でも機能不全を起こしている筋肉を同定し、それに対するトレーニングを行うことで安定性を改善していきます。

参考文献

  • Comparative Efficacy of Clinical Interventions for Sacroiliac Joint Pain: Systematic Review and Network Meta-analysis With Preliminary Design of Treatment Algorithm
  • 仙腸関節障害の診断と治療のコツ
  • 整形外科医のための脊椎スポーツ診療のすべて
  • 仙腸関節障害に対する手術療法 ―病態からみた手術の適応と要点―
  • 骨盤マルアライメントの治療

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