~肩が上がらないのは四十肩?五十肩??~
肩が痛い、上がらないと聞くと四十肩、五十肩じゃない?という話はよく聞くかと思います。また四十肩、五十肩は放っておけば治るとも言われたりしていますが、果たして本当にそうでしょうか?
今回はそんな四十肩、五十肩と言われる病態の正体である肩関節周囲炎についてご紹介します。
ここがポイント!肩関節周囲炎のまとめ
- 四十肩、五十肩と肩関節周囲炎は同じ
- 肩関節周囲炎は大まかに3つの病気をたどる
- 肩関節周囲炎が治るまでには時間がかかる
- 炎症期の治療には注射が有効
- リハビリでは可動域訓練を中心に行う
目次
- 肩関節周囲炎とは?
- 肩関節周囲炎の経過
- 肩関節周囲炎の症状
- 肩関節周囲炎の診断
- 肩関節周囲炎の治療
- 肩関節周囲炎のリハビリ
1.肩関節周囲炎とは?
肩関節周囲炎とは『なにかしらの関節内炎症によって肩関節に強い痛みを生じ、次第に肩関節の可動域制限が生じていく後に、疼痛が軽減して拘縮だけが残り、そして拘縮も経過とともに改善していくという病態』を指します。
そもそも肩関節周囲炎の起源は江戸時代1797年ごろと考えられます。その時代の書物の中に『凡、人 五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛むことあり、程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり、俗に之を五十腕とも五十肩ともいう。また長命病という』記載があったと言われています。
つまり、年を取れば肩も痛くなるだろう、ということが今も引き継がれていて、四十肩、五十肩と呼ばれるようになったのです。
好発年齢は40歳~70代と言われており、四十肩、五十肩というものの、年齢の幅は思いの外広いことが特徴です。
リスクファクターの筆頭は糖尿病であると言われていて、肩関節周囲炎の発祥率が高くなることが報告されています。
そんな痛みが出る肩関節ですが、細かくみると5つの関節に分類されています。
解剖学的関節
肩甲上腕関節(肩関節)、肩鎖関節、胸鎖関節
機能的関節
肩甲胸郭関節、第2肩関節
解剖学関節というのは骨と骨を包む関節包という袋みたいなものに覆われている関節のことを指します。機能的関節はそのような袋の構造がないものを言います。
この中で今回の肩関節周囲炎と直接的に問題となりやすいものが肩甲上腕関節(肩関節)です。肩甲上腕関節は構造的に不安定であるものの、大きな可動域を有しているという点が特徴になります。
2.肩関節周囲炎の経過
肩関節周囲炎の経過は大きく3つの病気をたどると言われています。まず始めに炎症期、その次に拘縮期、最後に回復期という流れです。
炎症期は痛みが強く、安静時でも痛みが存在することが多々あります。しかし、可動域は比較的保たれていることが多く『痛いけど肩は上がる』という状況です。これがおおよそ2~6ヶ月続くと言われています。
拘縮期では痛みが落ち着き、安静時や動作時でも痛みが軽くなります。痛みは軽減しているものの、名前の通り可動域が制限をされてしまいます。これが4~12ヶ月続きます。
回復期では痛みがほとんど消失し、可動域も徐々に改善していく時期です。これが6~26ヶ月続きます。
このように肩関節周囲炎の経過は非常に長いことが特徴です。全体を通してみると1年から3年半前後の期間を要します。
3.肩関節周囲炎の症状
肩関節周囲炎の症状は、上記で述べた病気と大きく関係しています。主に炎症期で痛みが強く、徐々に可動域も制限されていく時期では日常生活に支障をきたします。
特に頭を洗う動作や洗濯物を干す動作、着替えなどが痛みや肩の可動域制限のために徐々に困難になっていくことが多いです。
また、炎症期では『夜間痛』という寝ている時に肩が痛む、という状態が非常に高い頻度で起こります。その状態があると、寝ている途中で目が覚めてしまい睡眠にも障害をきたします。
睡眠に障害をきたすことで、痛みがより感じやすい状態となってしまったり、疲労が回復しない、日中にも眠気が起こり活動に支障をきたしてしまう、など様々な弊害が起こります。 そのため、夜間痛を伴う場合には早期に対応をすることが大変重要です。
痛みが強い時期が過ぎ去ると可動域制限により、日常生活が困難な状態は続きますが、生活自体はずっと楽になります。
4.肩関節周囲炎の診断
肩関節周囲炎は構造的な損傷のない軟部組織の病変が主体となります。そのため、レントゲンやMRIなどを用いて腱板断裂や石灰沈着性腱板炎との鑑別が重要です。
推奨グレードが高い評価としていわれているのはMRI造影になります。なぜなら関節包腋窩部や腱板疎部、烏口肩峰靭帯の肥厚、関節包容量の縮小などを検出することができるためです。
冒頭で述べたように肩関節周囲炎はその他の肩関節疾患との鑑別が非常に重要となるため、画像所見の他に徒手的な検査を組み合わせる必要があります。
例えば
- upper cut test
- External rotation lag sign
- Internal rotation lag test
- Horn blowers sign
- Howkins test
などなど様々な徒手的検査を使います。
これらを用いることで腱板損傷や断裂、上腕二頭筋長頭腱の損傷や肩峰下疼痛症候群などと鑑別をして、診断をするのです。
肩関節周囲炎の治療
肩関節周囲炎の炎症期にはステロイド注射の有効性が示されています。
ステロイドは炎症を抑える働きを持っているため、炎症期での疼痛軽減や肩関節の機能改善が得られます。
また非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)も有効性が示されています。NSAIDsも炎症を抑えることによる疼痛の軽減効果が見込まれます。
ステロイド治療は副作用の懸念があるため、使用が難しいケースもあります。その場合は上記のNSAIDsを使用することが多いです。
肩関節周囲炎の治療経過が長い場合や拘縮が強い場合には、麻酔下受動術(サイレントマニピュレーション)を行うこともあります。
サイレントマニピュレーションでは、肩関節の関節包、靱帯を切離する手技で、これを行うことにより、夜間痛の改善も報告されています。また理学療法との併用により疼痛や肩関節可動域の有意な改善も認められています。
そのためサイレントマニピュレーションを行って、可動域が改善したから終わりではなくリハビリも併用することが大切です。
可動域改善に難渋する場合には、当院でもサイレントマニピュレーションを行います。
6.肩関節周囲炎のリハビリ
肩関節のリハビリをする上での目標は基本的には日常生活動作の獲得です。日常生活を問題なく送るために必要な可動域は屈曲、外転伴に130度程度と言われています。
そのため、まずは日常生活における必要な可動域の獲得を1番に考慮することが必要です。人によっては趣味や仕事の関係で必要な可動域が変わってくるため、しっかりと問診して肩に求められる動きを把握する必要があります。
肩関節周囲炎におけるリハビリは病期に併せて行うことが重要です。
炎症期
特に炎症期で夜間痛がある場合は、就寝姿勢のポジショニングが大切になります。夜間痛は肩峰下圧の上昇と骨内圧の上昇により起こるということが言われており、圧力の上昇が痛みにつながっていると考えられます。
立位姿勢の場合は腕の重さがかかっているため、関節もスペースが広がる方向に力がかかっており圧力が大きく高まりません。しかし、横になると腕の重さがかからなくなるため、圧力が高まると言われています。
そのため横になる時には枕やクッションなどを用いて、肩関節の緊張が1番低い状態となる姿勢に保持することが重要となるのです。
また炎症期においては痛みを伴うような動作を避けることが大切になります。炎症を伴っている時期であるため、無理な動作を続けてしまうと痛みの増悪を引き起こしてしまうことがあるため、健側側でなるべく代償するようにしましょう。
この時期に動かすべきは肩甲骨と体幹です。肩甲骨と体幹は肩を動かすために大変重要で、肩関節1/3程度の動きを作ってくれています。
炎症期で肩を動かさない時間が長くなると、肩甲骨や体幹にも可動域の制限が起きてしまうため、炎症期から動かしておくことが大切なのです。
よって、炎症期では肩関節は痛みを伴うため安静を保持し、肩甲骨と体幹を動かすようにして炎症期が過ぎ去った後に肩を動かしやすい状態を保っておくことが重要になります。
拘縮期
拘縮期では痛みが軽減してくる時期であるため、徐々に可動域の改善を図っていきます。
理学療法ガイドラインにおいても拘縮期においては理学療法士による徒手療法と運動療法の併用が推奨されており、当院でも徒手療法及び運動療法を併用して治療を行っています。
運動療法ではストレッチを中心に行います。ストレッチの強度は痛みを伴わない範囲で、1セット30秒程度を目安にします。
どの部位をストレッチするかは肩関節の可動域を詳細に評価した上で判断していきます。肩関節の1st・2nd・3rd position内旋、外旋の可動域を評価することで、おおよそどの辺りの組織が硬いか分かります。
硬い組織を同定したらその部位に対してストレッチを行うことで、肩関節の可動域が向上します。
回復期
回復期では疼痛はほとんど消失し、可動域も健側に近づいていきます。最終域で制限が残ることがあるため、ストレッチを引き続き継続することが重要です。
また他動的な可動域が広がっていても自動可動域に制限が残存していることもあります。その場合は特に腱板筋(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)のトレーニングを行います。
腱板筋のトレーニングは低負荷で行うことが推奨されており、重くとも2kg以下です。回数はなるべく高頻度で行うことで筋力を強化することができます。
トレーニングを実践することによって、自分でコントロールできる可動域が拡大するため広がった可動域を使うことができるようになります。
参考文献
- 肩 その機能と臨床
- 肩関節周囲炎・理学療法ガイドライン
- Clinical Guidelines in the Management of Frozen Shoulder: An Update!
- 肩関節周囲炎に合併する夜間痛の病態と運動療法への展開