手根管症候群について

手根管症候群は絞扼性神経障害の1つです。

絞扼性神経障害とは、『明らかな外的原因がなく、神経が狭い経路を通過する解剖学的領域のいずれかに局在する末梢神経障害』のことを指します。

手根管症候群は比較的メジャーな疾患として考えられており、すべての神経障害の90%を占めるとも言われます。

今回はそんな手根管症候群について解説をします。

  • 手根管症候群は発生率の高い神経障害
  • 症状の重症度は3段階に分けられる
  • 診断のためのテストは感度・特異度伴に高い
  • 手根管症候群の治療には組み合わせが重要

目次

  1. 手根管症候群とは
  2. 手根管症候群の症状
  3. 手根管症候群の診断
  4. 手根管症候群の治療
  5. リハビリの流れ

1.手根管症候群とは

手根管症候群とは、手根骨と横手根靭帯によって区切られた手根管のレベルで、正中神経が圧迫および牽引されることによって引き起こされる神経障害です。

手根管症候群は最も頻度の高い絞扼性神経障害であり、一般人口の3.8%に存在すると考えられています。

発症率は年間276人/10万人と報告されており、有病率は女性で最大9.2%、男性で6%達する非常に身近な疾患です。

男性よりも女性に多く、両側に発生することが多く、ピーク年齢は40~60歳

と言われています。

手根管とは、横手根靭帯と手根骨の間にある骨線維性の出口のことで、9本の屈筋腱と併せて正中神経が通過しています。

正中神経の圧迫される部位は主に2か所で、手根管の近位端と有鉤骨鉤の最も狭い部分です。

この正中神経は頚椎の5番~6番から分岐して、上腕内側を通り手掌面に向かっていく神経です。

手関節の屈筋、手指屈筋、母指球筋を支配する神経で、特に手首や手指を動かすことに影響を与えると伴に、1〜3指の掌側と4指の橈側側の感覚を主に支配しています。

手根管症候群のほとんどの症例は特発性ですが、滑膜屈筋鞘の線維性肥大と手首の反復運動が原因です。

さらに特定のリスク要因が関連しているとされていて、医学的要因と職業的要因が含まれます。

医学的要因は、外因性、内因性、神経因性要因に分けることができます。

さらに手根管症候群の病因は、特発性と二次性に分類できます。

ほとんどの症例は特定の原因がないと考えられており、特発性症例として定義されています。

また2次性の原因として、手関節骨折後や関節リウマチ、透析患者、糖尿病、アミロイドーシスなどが挙げられます。

性別、年齢、遺伝、手根管のサイズなどのいくつかのリスク要因が、特発性手根管症候群のリスクに関係していることが示唆されています。

2.手根骨症候群の症状

通常1〜3指の掌側と4指の橈側の指に知覚異常が現れますが、手全体に知覚異常が現れたり、腕から肩にかけて痛みが広がると訴える人もいます。

半数以上の症例で最初の症状は両側性ですが、ほとんどの患者は最初に利き手に症状が現れます。

手根管症候群は症状と兆候に基づいて大きく3段階に別れています。

ステージ1

患者は手が腫れてしびれている感覚で夜中に頻繁に目覚めます。また、手首から肩にかけて広がる激しい痛みと、手と指の不快なチクチク感(夜間腕痛感覚異常)を訴えます。

この段階においてはフリックサインがみられます。

フリックサインとは、手首を振ったりすることで症状が一時的に緩和する減少のことを言います。

ステージ2

症状は日中にも出現するようになり、長時間同じ姿勢をとっているときや手や手首を繰り返し動かしているときに現れます。

運動障害が現れると、指の感覚がなくなるため、物が手から落ちることが多いと訴えるようになります。

ステージ3

母指球の萎縮が明らかな状態になり、正中神経は外科的減圧にほとんど反応しません。

母指球に痛みがあり圧迫により、短母指外転筋と母指対立筋の筋力低下と萎縮が確認できます。

3.手根管症候群の診断

評価に用いられる主な整形外科的テストは、ファーレンテスト (Phalen test)と 手根圧迫テスト(Durkan’s test)、 チネル徴候(Tinel’s sign)、パーフェクトO徴候です。

  • Phalen testは、60秒間手首を直角に持続的に屈曲させることで、症状の出現が確認できます。
  • 手動手根圧迫テストは、手根管を30秒間直接圧迫して症状の再現が得られれば陽性となります。
  • Tinel’s signは手根管を軽くたたくことで、手の正中神経支配部に知覚異常を引き起こします。
  • パーフェクトO徴候は、ステージ3以上で親指の根本の筋肉が萎縮し、人差し指を親指でO Kサインがうまく作れなくなります。

ファーレンテストと手根圧迫テストの組み合わせは、神経伝導検査と比較した場合、陽性予測値が95%、陰性予測値が88%であることが報告されているため診断に大変有効です。

その他に神経電動速度検査が有効とされています。

絶対感覚潜時3.7ミリ秒を超えること、正中神経の値と橈骨神経または尺骨神経の値の差が±0.4ミリ秒であること、運動伝導潜時が4.0ミリ秒を超えた場合が陽性です。

手根管症候群の診断とは別にその他の疾患との鑑別もしっかりと行う必要があります。

その例として

  • 頸椎神経根症(特にC6-C7)
  • 腕神経叢障害(特に上腕部)
  • 近位正中神経障害(特に円回内筋レベル)
  • 胸郭出口症候群
  • 中枢神経系障害(多発性硬化症、小脳梗塞)

このような疾患が挙げられ、これらの疾患は手根管よりも近位部の障害で起こるものです。

そのため手掌部の感覚障害や母指球筋の萎縮以外にも様々な症状が出現します。

4.手根管症候群の治療

治療は保存的治療と外科的治療があります。

保存的治療は軽症から中等度の人に対して有効です。

当院での保存的治療は以下の通りです。

  1. 装具やシーネによる固定療法
  2. 正中神経への神経ブロック注射やハイドロリリース注射
  3. 体外衝撃波治療
  4. 超音波による温熱療法
  5. リハビリテーション
  6. 非ステロイド性抗炎症薬や漢方薬による薬物療法

手根管の正常内圧はおよそ2〜10mmHgですが、手根管症候群患者のそれは10〜43mmHgと言われています。さらに手関節動作での手根管内圧の変化は、掌屈位(手首を掌側に曲げる)で約8倍、背屈位(掌屈の反対)で約10倍に上昇します。

そのため手関節固定を、日中と特に夜間に装着して手関節を正中位に保つ事が重要な治療法となります。またマウス操作によっても手根管内圧は上昇するため、リストレスト(手関節の下に置くタオルやクッション)を使用すると手関節内圧の上昇予防に有効です。

また、ステロイド注射の使用は、プラセボと比較して注射後1か月で症状の臨床的改善が大きくなったと報告されています。即効性があり有効な治療法ですが、頻繁に行う治療法ではありません。

外科的治療は手根管開放術(CTR)と言い、半年程度の保存療法でも改善が得られない場合に実施します。

手術は横手根靱帯を切離し手根管内のスペースを広げ、手根管内圧を下げます。

手術によって約70~90%の患者は良好な成績が得られますが、母指球の萎縮が見られるステージ3では神経の回復が乏しい場合があります。

5.リハビリの流れ

手根管症候群のリハビリは単一の物ではなく、様々な治療を組み合わせた方が良いと考えられます。

単一のリハビリのみの場合だと、論文上で報告されている効果が非常に小さいものだからです。

例えば、正中神経を滑走させるような神経に対する運動を行った場合、疼痛の軽減やピンチ力などが改善傾向となる報告されていますが、統計的な有意差までは出ていません。

  1. 手を軽く握る
  2. 親指を閉じたまま指を伸展
  3. 親指も一緒に指を伸展しながら背屈
  4. 伸展と背屈を保ちながら回外(親指側に手首を捻る)
  5. 反対の手で親指を伸展

このような事実から単一のリハビリのみで終わらせるのではなく、神経の滑走運動や手根骨のモビライゼーション、物理療法などを組み合わせて治療を進めていく必要があるのです。また、手関節背屈ストレッチなどのセルフケアも重要となります。

前章でも述べたように、保存的な治療法は軽症から中等度の状態の人が対象となります。

治療効果があまりない場合は手術療法を行うことも視野に入れる必要があります。

参考文献

  • 運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編
  • Carpal Tunnel Syndrome and Other Entrapment Neuropathies
  • Carpal Tunnel Syndrome: A Review of the Recent Literature

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