筋筋膜性腰痛について

腰痛には様々な原因があります。腰椎椎間板ヘルニアや腰椎分離症、すべり症、腰椎椎間板症など疾患が多数あるため、何が原因出るか見極めることが重要です。

このような疾患は画像検査をすることで診断がつけられますが、画像上問題がなくとも腰痛が起きることがあります。

その原因の1つとして、筋肉による疼痛が考えられます。

筋筋膜由来の疼痛である筋筋膜性腰痛について今回はお伝えします。

  • 腰痛の約18%が筋筋膜性腰痛
  • 診断には他の腰痛を引き起こす疾患を除外する必要がある
  • 治療としてハイドロリリースを行うことがある
  • リハビリでは結果因子と原因因子を推測していく
  • 疼痛が減少する操作を確認しリハビリを進めていく

目次

  1. 筋筋膜性腰痛とは
  2. 筋筋膜性腰痛の診断
  3. 筋筋膜性腰痛の治療
  4. リハビリの流れ

1.筋筋膜性腰痛とは

腰痛に悩む人はかなり多く、日本では成人の約4分の1が腰痛に悩まされていると言われています。

そもそも腰痛とは体幹後面に存在し、第12肋骨と臀溝下端の間にあるもので、少なくとも1日以上継続する痛みのことを指します。
片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も伴わない場合もあるとされています。
有症期間による分類もなされていて、発症から4週未満であれば急性腰痛、4週以上3ヶ月未満であれば亜急性腰痛、発症から3ヶ月以上経過したものを慢性腰痛といいます。

さらに原因は多岐に渡り、脊椎、内臓、血管、心因性など様々なものが関係しているのです。

その中でも筋肉と筋膜による影響で疼痛が出現しているものが筋筋膜性腰痛となります。
一定の基準はあるものの腰痛を大きく2つに大別すると、特異的腰痛と非特異的腰痛に分けられます。

原因が明確に特定できるものを特異的腰痛、原因が明確に特定できないものを非特異的腰痛と呼びます。
世界的に約85%の患者が原因不明であり、日本でも腰痛の約80%は原因不明であると言われたりしていました。
しかし、実際はそんなことはなく、原因を調べていくと約80%の人で診断名がつけられる腰痛でした。
裏を返せば原因が特定できなかったものは約20%なのです。

その中で筋筋膜性腰痛は約18%の人につけられた診断名でした。
つまり腰痛を訴えている人の約5人に1人は筋筋膜性腰痛であるという風に考えることが出来ます。

筋膜はよく全身を包むボディースーツに例えられます。
ただしこれは正確な表現ではありません。
筋膜は狭義の意味では筋を包む膜組織であるため、正確には全身を包むのはまとめて膜といいます。

筋膜は筋よりも神経支配が豊富で、ルフィニ小体、パチニ小体、自由神経終末が10倍もあります。
そのため侵害刺激に対して敏感に反応し、疼痛を引き起こしてしまうことになるのです。

また脊柱起立筋の緊張が過剰な状態が続くと、筋が虚血状態になります。
すると筋から発痛物質が分泌されるため、疼痛を引き起こすということも起こります。

つまり、筋筋膜性腰痛は筋を包む膜組織である筋膜による影響と、筋実質の影響と2つの要因があると言えるのです。

2.筋筋膜性腰痛の診断

腰痛診断における画像検査は、問診と身体検査でトリアージしたred flagsをより多面的かつ非侵襲的に評価することで正診率を確保することが目的だと言われています。
そのため腰痛の診断で非常に重要なことはred flagsの除外です。

Red flagsとは重篤な疾患や危険な状態を示す兆候のことを指します。
腰痛の場合、重篤な脊椎疾患の合併を疑うred flagsとして以下のような項目が挙げられます。

  • 発症年齢 <20歳または55歳
  • 時間や活動性に関係のない腰痛
  • 胸部痛
  • 癌、ステロイド治療、HIV感染の既往
  • 栄養不良
  • 体重減少
  • 広範囲に及ぶ神経症状
  • 構築性脊柱変形
  • 発熱

しかしこれらは1つ当てはまったからすぐに問題になるかというとそうではありません。
複数の項目が当てはまった際に重篤な疾患が隠されている可能性が高まりますので、問診でこれらの情報を聞き出すことは非常に大切です。

筋筋膜性腰痛の診断は脊柱起立筋の圧痛の感度が0.69、特異度が0.61であるため、確定診断が難しく他の腰痛疾患を除外する必要があると言われています。

単純X線検査では腰椎すべり症や椎体骨折を評価する上で有用とされています。
MRIやCTでは腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症、感染や早期の癌などの診断にも有効です。

red flagsを疑った場合は単純X線検査だけではなく、MRIやCT検査を行う必要があります。

このように他の疾患を除外した上で筋筋膜性腰痛と診断を進めていきます。

しかしすべてのケースでMRI、CTといきなり検査をするのではなく、問診なども行なった上で判断をします。

3.筋筋膜性腰痛の治療

基本的に筋筋膜性腰痛はリハビリが適応となるため、保存療法を中心に行います。

腰痛に関係する筋膜としては、胸腰筋膜が注目されています。
胸腰筋膜には自由神経終末が豊富であり、慢性腰痛患者では胸腰筋膜の厚みが増していたことも報告されているため、胸腰筋膜が筋筋膜性腰痛の1つの原因であると推察できます。

治療法の1つとして生理食塩水を筋膜間に注入する超音波(エコー)ガイド下ハイドロリリースを行うことがあります。

ハイドロリリースは筋膜の滑走不善を解消することが目的です。
その結果、即時的に疼痛や異常感覚が改善することもあるため、治療法の1つとしてハイドロリリースが選択されることがあります。

4.リハビリの流れ

筋筋膜性腰痛に対するリハビリは決まってこれをするというものはありません。
まずは疼痛の原因となっている筋を見極めていきます。

腸肋筋や最長筋、多裂筋や腰方形筋など、どの筋肉が主な疼痛の原因組織になっているかによって、治療方法が異なります。
またどの筋肉が原因として考えられるか判断ができれば、ストレスとなっている動作との関係も見えるようになってくるのです。

例えば前屈動作であれば、腸肋筋や最長筋に対して伸長ストレスが大きくなるのに対し、側屈動作であれば腰方形筋の関与も大きくなってきます。

このようにどの筋肉が疼痛の原因となっているか、圧痛所見を基に考えることによって治療の方向性が見えてきます。

さらに疼痛減弱テストによってどうすると疼痛が減少するかを評価することでアプローチの方向性をさらに絞り込んでいきます。
疼痛減弱テストは、筋筋膜性腰痛の原因組織を評価するために有効な方法です。

前屈を例に考えてみたいと思います。
足を肩幅に開いた位置で前屈した時の疼痛を10とした時にどうすると疼痛が減弱するかいくつかのパターンで評価をしていきます。

①足を肩幅よりも広く開いて前屈

足を肩幅よりも広く開くことで、股関節の外転筋の緊張が軽減します。
その状態で通常の前屈よりも疼痛が軽減した場合は、股関節外転かつ伸展筋である中殿筋後部線維の緊張の増加が腰痛に関与している可能性があると考えられます。

もちろん中殿筋後部線維の圧痛も評価し、緊張状態がどうかも評価し腰痛を強める因子であるか判断をしていきます。

②膝を軽く曲げた状態で前屈

膝を軽く曲げた状態にすると膝関節屈曲筋の緊張が軽減します。
その状態で前屈をして疼痛が軽減した場合は、ハムストリングスの緊張増加が腰痛に関与している可能性があると判断できます。ハムストリングス強力な股関節伸展筋でもあるため、前屈によって強く伸長されます。

ハムストリングスの圧痛所見もあれば、同筋の緊張を軽減させるようなアプローチを行なっていくことが有効です。

③筋間の滑走性をサポートして前屈

腰部の筋間に指を差し込んで、筋間の滑走性を促すように前屈をさせて疼痛が減弱した場合は、その周囲の筋膜の滑走不全が疼痛に関与していると評価することができます。

その場合、結果因子に対するアプローチとして、その周囲の筋膜の滑走を促すようにすることで疼痛が減弱すると考えられます。

④腹筋の収縮をサポートして前屈

腹部を前面から圧迫するようにして、腹筋の収縮をアシストするようにして前屈をして疼痛が減弱した場合は、腹筋群の機能不全が考えられます。

腹筋の収縮は腹圧の上昇にも関与しており、腹圧の増加は体幹を伸展方向に保つ役割も担うため重要です。
このサポートで疼痛が減弱した場合は、トレーニングとして腹筋群のトレーニングを行うことが必要になります。

⑤骨盤を圧迫しての前屈

骨盤を圧迫することによって、仙腸関節を外的に安定させることができます。

仙腸関節に不安定性があったり、アライメント不良がある場合は、このような操作で疼痛が減弱することがあります。
その場合は、仙腸関節の安定性を高めるような腹部インナーユニットのトレーニングと、仙腸関節のアライメント修正が有効です。

このような形で、筋筋膜性腰痛に対する明確なリハビリというのは現状恐らくありません。
そのため原因と思われる筋や関節の機能不全を探し、そこに対してアプローチをしていくことが重要です。

参考文献

  • Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study
  • 腰痛診療ガイドライン2019
  • 脊椎のスポーツ診療のすべて
  • 脊椎保存療法のリハビリテーション

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